コンテンツにスキップ

ルカ傳聖福音(新契約聖書) 第十九章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第十九章

[編集]

1 かくて彼はエリコに入り來りて過ぎ往き給へり。
2 然るに見よ、名をザアカイと呼ぶ人ありき。また彼は關税人長にて富める者なりき。
3 また彼はイエスを如何なる人なるか、見んことを索めつつありき。然るに身丈みのたけ短かりし故に、群衆のために〔見ること〕能はざりき。
4 乃ち走りて先んじ往き、彼を見んために桑の樹に登れり。そは彼はその〔道を〕過ぎ往かんとし給ひたればなり。
5 かくてそこに到り給ひしとき、イエス視上げて彼を見、且つこれに對ひてのたまへり、ザアカイよ、急ぎ下れ。そは今日汝の家に必ず我を逗めざるを得ざればなり。
6 乃ち急ぎ下り、且つ喜びて彼を受けたり。
7 さればすべて〔の者〕見しとき、つぶやきて云ひけるは、彼は罪深き人の許に宿るべく入り來れりと。
8 然るにザアカイ立ちて、主に對ひていへり、見よ、我が有ち物の半を、主よ、われ貧しき者に與へん、且つもし人より誣ひ訴へて取りしものあらば、〔それを〕四倍返さん。
9 乃ちイエス彼に對ひてのたまへり、今日救は此の家に來れり、これ彼もアブラハムの子なるが故なり。
10 そは人の子は失せたる者を索め、且つ救はんために到りたればなり。

11 然るに人々此等の事を聞きしとき、彼はエルサレムに近づき給ひ、また神の國は忽ち顯はれんとすと彼等の思ひしが故に、喩を加へて曰へり。
12 是の故に曰へり、出生貴き或る人、己自らのために國を得て歸へらんとて、遠國に往けり。
13 また彼は己が十〔人〕の奴僕を呼びて、彼等に十ムナを與へ、且つこれに對ひて云へり、我の來るまで商賣せよ。
14 然るに市民等は彼を憎みたれば、後より使節を使はして云ひけるは、我等は此の人の、我等の上に王たることを欲せず。
15 かくて彼の國を得て歸り來りしときにかくありき、卽ち彼は銀子ぎんすを與へし此等の奴僕ぬぼくを呼べと云へり。是れ商賣して益せしところを知らんためなり。
16 かくて最初の者いたりて云ひけるは、主よ、汝のムナは十ムナを働き出だせり。
17 乃ち彼いへり、宜しきかな、善き奴僕よ。汝は最小さき事にまことなりし故に、十のまちの上に權を執れ。
18 また次の者到りて云ひけるは、主よ、汝のムナは五ムナを得たり。
19 乃ち此の者にもいへり、されば汝は五つの市の上にあれ。
20 また他の者到りて云ひけるは、主よ、汝のムナを見よ、我これを手巾に包みて保てり。
21 そはわれ汝を懼れたればなり。そは汝は嚴しき人にて、置かざるものを取り、また播かざるものを穫ればなり。
22 然るに彼いへり、われ汝の口にて汝を裁かん、惡しき奴僕よ。汝、われは嚴しき人にて、置かざるものを取り、また播かざるものを穫ることを知る。
23 されば我が來るとき、利子と同にそれを請求するために、何故に我が銀子を兩替所に與へざりしや。
24 かくて傍に立てる者にいへり、ムナを彼より取れ。また十ムナもてる者に〔それを〕與へよ。
25 乃ち人々彼にいへり、主よ、彼は十ムナあり。
26 そはわれ汝等に云はん、すべて有つ者は與へられん、されど有たぬ者よりは、その有つものをも取らるべければなり。
27 それのみならず、われの彼等の上に王たるを欲せざる、それらの我が敵を此處に連れ來れ、且つ我が前にて殺せ。
28 また此等の事をのたまひて〔後〕、彼はエロソルマに上らんとて、先立ちて往き給へり。

29 かくて彼はエライヲンと呼ぶ山の對なる、ベテパゲとベタニヤとに近づき給ひしときかくありき、彼は弟子等のうちの二〔人〕を使はして、
30 のたまひけるは、むかひの村に往け。そこに入り往かば、未だ曾て誰も乘りしことなき、繋がれたる仔駝馬を見出だすべし。それを釋きて連れ來れ。
31 またもし誰ぞ汝等に、何故に釋くや、と問はば、かく彼に謂へ、主これを要し給ふと。
32 かくて使はされたる者去つて、彼ののたまひし如く見出だしたり。
33 また彼等の仔馳馬を釋けるとき、その主たち彼等に對ひて、何故に仔駿馬を釋くや、といへり。
34 乃ち彼等いへり、主これを要し給ふ。
35 かくて彼等はそれをイエスの許に連れ來れり。また仔驢馬の上に彼等の衣を投げ掛けし〔後〕イエスを乘せ參らせたり。
36 かくて彼の往き給ひしとき、人々その衣を道に敷けり。
37 また既に彼のエライヲンの山の下り路に近づき給ひしとき、弟子等の大衆みな、その見しちからあるわざに就き、喜びて大聲に神を讃美し始めたり。
38 云ひけるは、主の名に於て來る王は祝せられます者かな、天には平和、また至高き處には榮光〔あれ〕。
39 然るにパリサイの人々のうちの或る者、群衆のうちより彼に對ひていへり、師よ、汝の弟子等を叱し給へ。
40 乃ち答へて彼等にのたまへり、われ汝等に云はん、此等の者もし默さんには石叫び出づべしと。
41 かくて近づき給ひしとき、市を見て、これがために泣き給ひ、
42 云ひ給ひけるは、汝もし汝さへ、せめては此の汝の日に於て、汝の平和にかかれる事を知りたらんには。然るに今彼等は汝の目より隱れたり。
43 そは汝の上に日來り、かくて汝の敵は汝を繞りて壘を築き、且つ汝を取り卷きて、四方より汝を攻むべければなり。
44 かくて汝と汝のうちにある兒等とを、地面とともにならし、且つ汝のうちの石を石の上に遺さざるべし。そは汝はかへりみの期を知らざるが故なり。

45 また彼は神殿に入り來り給ひて、そのうちにて賣る者と、買ふ者とを逐ひ出だし始め給へり。
46 彼等に云ひ給ひけるは、我が家は禱の家なり、と録されたり.然るに汝等はこれを强盜どもの巣と爲せり。

47 かくて彼は日に循ひ神殿にて敎へておはしき。然るに祭司長等と學者等と民の重立ちたる人々とは、彼を亡ぼさんことを索めたり。
48 されど彼等は何をも爲すべき事を見出ださざりき。そは民みな彼にすがりて聞きつつありたればなり。