ルカ傳聖福音(新契約聖書) 第二十四章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第二十四章[編集]

1 かくて週のはじめの日に朝まだき、彼等は備へたる香料を携へて墓に到れり。また或る者も彼等に伴へり。

2 然るに彼等は墓より轉ばし去られたる石を見出だせり。
3 乃ち入り來りしに、主イエスの燈を見出ださざりき。
4 されば此の事に就きて詮術せんすべを知らでありしときかくありき、卽ち見よ二〔人〕の男あり、輝ける衣服にて彼等の傍に立てり。
5 されば彼等は怖ろしくなりて、顏を地に伏せけるに、彼等に對ひていへり、何故に汝等は死人のうちに生ける者を索むるや。
6 彼は此處におはさず、されど起き給へり、彼の尚ほガリラヤにおはししとき、汝等に如何にものがたり給ひしかを憶ひ出でよ、
7 云ひ給ひけるは、人の子は必ず罪深き人々の手に付され、また十字架につけられ、また三日めに立ち上がらざるべからずと。
8 乃ち彼等はその詞を憶ひ出でたり。
9 されば墓より歸りて、此等のすべての事を十一と、その餘のすべての者に報じたり。
10 また此等の事を使徒等に對ひて云ひたる者は、マグダラのマリア、またヨハンナ、またヤコブのマリア、並にその餘の彼等に伴ひし婦等なりき。
11 然るに此等の詞は彼等の面前に戲れ言の如く顯はれたり。されば彼等はまこととせざりき。
12 されどペテロは立ち上がり墓に向ひて走れり。かくて屈みて唯麻布のみ横はれるを視たり。されば發りし事を己自らに對ひ異しみつつ去れり。

13 また見よ、此の日彼等のうちの二〔人〕、エルサレムより三里ばかり隔たりたる村、その名はエマオに往きつつありき。
14 また彼等はふりかかりし此等のすべての事に就きて、互にかたり合ひつつありき。
15 かくて彼等は互にかたり、且つ論じ合ひしときかくありき、卽ちイエス自ら近づきて彼等とともに往き給へり。
16 然るに彼等の目はとらへられて、彼を知らざりき。
17 かくて彼等に對ひてのたまへり、汝等は歩みながらはす此等の言と、曇りがちなる容子とは何ぞや。
18 乃ちその一〔人〕、その名はクレオパ、答へて彼に對ひていへり、汝はエルサレムにやどりながら、此等の日にそのうちにて發りし事を獨り知らざるか。
19 かくて彼等にのたまへり、如何なる事そや。乃ち彼等は彼にいへり、ナザレ人なるイエスに就きての事〔なり〕。彼は神とすべての民との前に、わざことばとに力ある豫言者なる人なりき。
20 然るに如何なればか、祭・司長等と我等の長等とは彼を死罪の裁にわたして、十字架につけたり。
21 されど我等はイスラエルを將に贖はんとする者は、彼なりと望みつつありしなり。されど此等の事のありしより三日めなる今日、此等のすべての事をもたらせり。
22 されど我等のうちの或る婦等は朝まだき墓にありて、我等を驚かせり。
23 卽ち彼の體を見出さずして歸り、彼は生きておはす、と云ふ天使の異象を觀たりと云ふなり。
24 また我等とともにある者のうちの或る者も、墓に往きて、婦等のいへる如くなる見出だせり、卽ち彼を彼等は見ざりき。
25 然るに彼は彼等に對ひてのたまへり。ああ、豫言者等のものがたりしすべての事を信ずる心の、鈍く且つ遲き者よ。
26 キリストは必ず此等の苦を受け、またその榮光に入り來らざるべからざるにあらずや。
27 かくて彼はモヲゼより、またすべての豫言者等より始めて、己自らに係はる事をすべて聖書に於て說き示し給へり。
28 かくて彼等の往かんとする村に近づけり。然るに彼は尚ほ遙に往かんとする樣なりき。
29 されば彼等强ひて云ひけるは、我等と共に逗まれ、そは暮るるは近し、日既に傾きたればなり。乃ち彼等と同に逗まるべく入り來り給へり。
30 かくて彼等と共に彼の席に着き給ひしときかくありき、彼はパンを取りて祝し給ひ、且つ擘きて彼等に與へ給へり。
31 乃ち彼等の目開けて彼をつまびらかに知れり。また彼は彼等より見えずなり給へり。
32 乃ち彼等互にいへり、道にて我等にものがたり、且つ我等に聖書をひらき給ひしとき、我等の心は我等のうちに燃えしにあらずや。
33 されば彼等はその時立ち上がりて、エルサレムに歸り、かくて十一と借にそれに伴ふ人々の集まれるを見出だせり、
34 云ひけるは、主はまことに起き給へり、且つシモンに現はれ給へりと。
35 乃ち彼等も道にての事と、如何に彼のパンを擘き給ふこととにて知られ給ひしかとを陳べたり。

36 また此等の事を彼等のものがたりつつありしとき、彼、イエスはその眞中に立ち給ひ、かくて云ひ給ふ、平和汝等に〔あれ〕。
37 然るに怖れて懼れたれば、彼等は靈を看たりと思へり。
38 されば彼等にのたまへり、何ぞ當惑するや。また何故に汝等心に勘考をのぼすや。
39 我が手と我が足とを見よ、そは我自らなればなり。我に捫れ、且つ見よ。そは我がもてるを汝等の看る如く靈は肉と骨とをもたざればなり。
40 かくのたまひて、彼等にその手と足とを見はし給へり、
41 然るに彼等は尚ほ喜びのあまり、まこととせずして異しみつつありしかば、彼等にのたまへり、此處に何ぞ食すべきものあるや。
42 乃ち彼等は少しばかりの炙りたる魚と、蜜房とをすすめたり。
43 されば彼は取りて、彼等の面前にて喰ひ給へり。
44 かくて彼等にのたまへり、われ尚ほ汝等と同にありしとき、ものがたりし言は是れなり、卽ちモヲゼの掟と豫言者等と詩とのうちに、我に就きて録されたるすべての事は必ず成就せられざるべからず。
45 そのとき彼は聖書を悟らしめんとて、彼等の心を闡き、
46 且つ彼等にのたまへり、かく録されたり、さればかくの如く、必ずキリストは苦を受け、また三日めに死人のうちより起たざるべからず。
47 また彼の名に於て悔い改と罪の赦とは、エルサレムより始まりすべての國人に宣べらるべしと。
48 また汝等は此等の事の證人あかしびとなり。
49 また見よ、われ我が父の約束を汝等に使はさん。されど汝等上より力を着せらるるまでは、エルサレムの市に留まれ。

50 かくて彼ば彼等を外にベタニヤのむかひにまで連れ出だし、且つ手を舉げてこれを祝し給へり。
51 また彼の彼等を祝しておはししときかくありき、彼は彼等より離れて天に舉げられ給へり。
52 されば彼等はこれを拜し、大なる喜をもてエルサレムに歸りたり。
53 かくて神を讃め歌ひ且つ祝しつつ、常に神殿にありき。アメン。