ヨハネ傳聖福音(新契約聖書) 第五章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第五章[編集]

1 此等の事の後、ユダヤ人の節會せちゑありき。さればイエスはエロソルマに上り給へり。
2 またエロソルマのうち羊の門の邊に五つの廊ある、ヘブルことばにてベテスダと云ふ池あり。
3 その内に病める者、盲者、跛者、萎えたる者などの夥しき大衆、その水の動くを待ちつつ臥し居れり。
4 そは天使、期に循ひて池に降り、且つその水をみだせばなり。是の故にその水のみだされたるのち、一番に〔池に〕入りし者は如何なる疾に罹かれる者にても、すこやかになりたればなり。
5 然るに三十八年病のうちにありたる或る人そこにありき。
6 イエス臥し居る此の者を見たまひ、且つその〔病の〕既に久しきことを知りて、彼に云ひ給ふ、すこやかにならんことを欲するや。
7 病める者彼に答へり、主よ、我は水の攪き亂されたるときに、我を〔扶けて〕池に入るるために人をもたず、されば我が來りつつあるうちに、他の者我に先立ちて降るなり。
8 イエス彼に云ひ給ふ、起きよ、汝の床を取り上げよ、且つ歩め。
9 乃ち直にその人は健になれり。かくてその床を取り上げたり、且つ歩めり。またその日は安息日なりき。
10 是の故にユダヤ人癒されたる者に云へり、安息日なり。汝床を取り上ぐるはただしからず。
11 彼等に答へたり、我を健に爲しし者、彼われにいへり、汝の床を取り上げよ、且つ歩め。
12 是の故に彼に聞へり、その人、汝の床を取り上げよ、且つ歩め、と汝にいひし者は誰なるや。
13 されど醫されし者、その誰なるを知らざりき。そはその場所に群衆居りたれば、イエス避け給ひたればなり。
14 此等の事の後、イエス神殿にて彼を見出だし給ふ、乃ちこれにのたまへり、見よ、汝は健になれり。〔されば〕以前にも勝る惡しき事の汝に發らざるやう、もはや罪を犯す勿れ。
15 その人去れり。かくて己を健に爲し給ひし者はイエスなりと、ユダヤ人に知らしめたり。

16 されば此のゆゑにユダヤ人イエスを迫害し、且つ彼を殺すことを索めたり。そは安息日に此の事を爲し給ひたればなり。
17 されどイエス彼等に答へ給へり、我が父は現に働き給ふ、乃ち我は働くなり。
18 此のゆゑにユダヤ人増々イエスを殺すことを索めたり。そは啻に安息日を破るのみならず、神を己が父とさへ云ひ、己自らを神に均しうするが故なり。
19 是の故にイエス答へ且つ彼等にのたまへり、誠に誠にわれ汝等に云はん、子は父の爲し給ふことを視て〔爲す〕の外、己自らより何をも爲すことを得ず、そは何にても彼の爲し給ふこと、此等を子も等しく爲せばなり。
20 そは父は子をねんごろにし給ひ、かくて己自ら爲し給ふところのすべての事を彼にあらはし給へばなり。且つ汝等の異しむために、此等よりも大なるわざを彼にあらはし給ふべし。
21 そは父の死にし者を起し、且つかし給ふ如く、その如く子も己が欲する者を活かすべければなり。
22 そは父は誰をも裁き給はず、されどすべて裁を子に與へ給ひたればなり。
23 是れ父を敬ふ如くに、すべて〔の人〕の子を敬ふためなり。子を敬はざる者は、彼を遣はし給ひし父を敬はず。
24 誠に誠にわれ汝等に云はん、我が言を聞き且つ我を遣はし給ひし者を信ずる者は、とこしへいのちをもち且つ裁に來らず、されど死より生に移れりと。
25 誠に誠にわれ汝等に云はん、死にし者神の子の聲を聞く時は來りつつあり、卽ち今なり。さればこれを聞きし者は生くべし。
26 そは父の己自らにいのちをもち給ふ如く、その如く子にも己自らにいのちをもたしめ給ひたればなり。
27 また人の子たるが故に、これに裁を爲すの權を與へ給へり。
28 これを異しむ勿れ。そは墓に在る者みな彼の聲を聞き、
29 かくて善を爲しし者はいのちよみがへりに、また惡を行ひし者は裁のよみがへりに、出で往くべき時は來りつつあればなり。
30 我は何事をも我自身より爲すことを得ず、我は聞く如くに裁く。さればその裁、我のは義し。そは我はこの意、我のを索めず、されど我を遣はし給ひし者、父の意を〔索むる〕が故なり。
31 我もし我自身に就きて證を爲さば、我が證は眞ならず。
32 我に就きて證する者は他の者なり。されば我は我に就きて證する、その證の眞なることを知る。

33 汝等〔人を〕ヨハネの許に使はせり。かくて彼は眞理に對して證をなせり。
34 されど我は人より證を受けず、されど此等の事をわれ汝等の救はるるために云ふ。
35 彼は燈火、ともり且つ輝く者なり。されば汝等は一と時の間、その光のうちに歡ぶことをよしとせり。
36 されど我はヨハネの〔證〕より尚ほ大なる證あり。そは我のこれを完うすべきために、父の我に與へ給ひしわざ〔卽ち〕我が爲すところのそのわざは、我に就きて父の我を使はし給ひしことを證すればなり。
37 且つ我を遣はし給ひし父、彼は我に就きてあかしをなし給へり。汝等は未だ曾てその聲を聞かず、またその容をも觀ず。
38 またその言を汝等のうちに居らしめず。そは彼の使はし給ひし者、此の者を汝等は儲ぜざればなり。
39 汝等は聖書をさぐる、そはそのうちにとこしへいのちありと思ふが故なり。されどそれらは我に就きて證するものなり。
40 然るに汝等は生を有つために我が許に來ることを欲せず。
41 我は榮光を人より受けず。
42 されど我は汝等を知る、卽ち汝等は己自らのうちに神の愛を有たざるなり。
43 我は我が父の名に於て到りたり、然るに汝等は我を受けず。他の者もし己の名に於て到りたらんには、彼を汝等は受くるならん。
44 互に他より榮光を受け、且つかの榮光卽ち唯一の神よりの〔榮光〕を索めざる汝等は、如何にして信ずることを得んや。
45 汝等を父に對ひて訴ふべしと我を思ふ勿れ。汝等を訴ふる者あり汝等のたのむところのモヲゼなり。
46 そは汝等もしモヲゼを信ぜば、我を信ずべければなり。そは彼は我に就きて録したればなり。
47 されど汝等もし彼の書を信ぜずば、如何にして我が詞を信ずべけんや。