コンテンツにスキップ

マタイ傳聖福音(新契約聖書) 第六章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第六章

[編集]

1 看られんがために人々の前に、汝等の施を爲さざるやう心せよ。されどもし然らずば、天に〔おはす〕汝等の父の前に報を得じ。
2 是の故に汝、施を爲すときは、人々より頌めらるるために、會堂またちまたに於て、僞善者等の爲す如く、己が前にて喇叭を鳴らす勿れ。誠にわれ汝等に云はん、彼等はその報を得たり。
3 されど汝、施を爲すとき、汝の右の手の爲すことを、左の手に知らしむる勿れ。
4 是れ汝の施の隱るるためなり。されば隱れたるに視給ふ汝の父は、あらはに汝に酬い給ふべし。
5 また汝祈るとき、僞善者等の如くあるべからず、そは彼等は人に顯はるるために、會堂また大路の角に立ちて祈ることを好めばなり。誠にわれ汝等に云はん、彼等はその報を得たり。
6 されど汝祈るときは、汝の部屋に入り來り、且つ戸を鍵して、隱れたるに〔おはす〕汝の父に祈れ。されば隱れたるに視給ふ汝の父は、顯に酬い給ふべし。
7 また汝等祈るときは、異邦人の如く空しき繰り返しことばをなす勿れ。そは彼等は言多ことばければ聞き入れらるるならんと思へばなり。
8 是の故に彼等に等しからざれ。そは汝等の父は、汝等の求むるに先んじて、汝等が要するものを知り給へばなり。
9 是の故に汝等はかく祈れ。天に〔おはす〕我等の父よ、御名の聖められ給はんことを。
10 御國を來らしめ給へ。御意の天に於ける如く、地の上にもならしめ給へ。
11 我等のパン、無くてならぬ物を、今日我等に與へ給へ。
12 また我等の債主おひめぬしに我等も赦すが故に、我等のおひめを我等に赦し給へ。
13 また我等を試のうちに導き給はず、されど惡より我等を援ひ出だし給へ。そは國と力と榮光とは、世々に至るまで汝のものなればなり。アメン。
14 そは汝等もし人にその曲事を赦さば、あめなる汝等の父は汝等にも赦し給ふべければなり。
15 されど汝等もし人にその曲事を赦さずば、汝等の父も汝等の曲事を赦し給はざるべし。
16 また汝等斷食するとき、僞善者等の如く曇りがちなる容子ようすになる勿れ。そは彼等は斷食することの人に顯はるるやう、その顏を見苦しうすればなり。誠にわれ汝等に云はん、彼等はその報を得たり。
17 されど汝斷食するときは、汝の頭に油ぬり、且つ顏を洗へ。
18 是れ汝の斷食すること、人に顯はれずして、反つて隱れたるに〔おはす〕汝の父に〔顯はるる〕ためなり。されば隱れたるに視給ふ汝の父は顯に汝に酬い給ふべし。

19 汝等のためにしみさびとのそこなふところ、また盜人の穿ちて盜む處なる地に、財を蓄ふる勿れ。
20 されど汝等のため、蠧も錆も損はざる處、且つ盜人も穿たず、また盜まざる處の天に財を蓄へよ。
21 そは汝等の財のある處、そこに汝等の心も在るべければなり。
22 體の燈火は目なり。是の故に汝の目もしすこやかならば、汝の體は全くあかりたらん。
23 されど汝の目もし惡しからば、汝の體は全く闇たるべし。是の故に汝のうちの光もし暗からば、その暗は如何ばかりそや。
24 誰も二主に奴僕ぬぼくたること能はず。そは或ひは一を憎み、また他を愛し、或ひは一を重んじ、また他を輕んずべければなり。汝等神とマモンとに奴僕ぬぼくたること能はず。
25 此のゆゑにわれ汝等に云はん、汝等の魂のために何を喰ひ、また何を飮み、また體のために何を着るべきかと心遣ひする勿れ。魂は食物より勝り、また體は衣より〔勝る〕にあらずや。
26 空の鳥をつらつら視よ、彼等は播かず、またらず、また倉に收むることもなし。然るにあめなる汝等の父はこれを養ひ給ふ。汝等はこれよりすぐるるにあらずや。
27 されど汝等のうち誰か心遣ひして、その身丈に寸分をも加ふることを得るや。
28 また衣に就きて汝等何ぞ心遣ひするや。野の百合は如何にして育つかをつらつら思へ。彼等は勞せずまた紡がず。
29 されどわれ汝等に云はん、その榮光のきはみに於けるソロモンさへ、此等のうちの一つ程に裝はれざりきと。
30 されどもし神は今日ありて、明日は爐に投げ入れらるる野の草をもかく裝ひ給はば、汝等は尚ほ勝らずや、信仰小さき者よ。
31 是の故に我等は何を喰ひ、或ひは何を飮み、或ひは何をもて纏はるべきや、と云ひつつ心遣ひする勿れ。
32 そはすべて此等のものを國人はもとむればなり。そはあめなる汝等の父は汝等がすべて此等のものの、無くてならぬことを知り給へばなり。
33 されど汝等先づ神の國と彼の義とをもとめよ。されば此等の物はみな汝等に加へらるべし。
34 是の故に明日のために心遣ひする勿れ。そは明日は〔明日〕自ら己が事を心遣ひすべければなり。その勞苦はその日のために不足なし。