マタイ傳聖福音(新契約聖書) 第八章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第八章[編集]

1 かくて彼の山より下り來り給ひしとき、多くの群衆彼に從へり。
2 また見よ〔一人の〕癩病者來りて彼に平伏ひれふし、云ひけるは、主よ、汝もしよしとし給はば、我をきよむることをくし給ふ。
3 さればイエス手をべ、彼にさはりて云ひ給ひけるは、し、淨まれよ。乃ち直に彼の癩病きよまれり。
4 かくてイエス彼に云ひ給ふ、よ、誰にもいふ勿れ。されど往け。汝自身を祭司にあらはせ、且つ彼等にあかしのため、モヲゼの言ひ付けし供へ物を獻げよ。

5 またイエスのカペナウムに入り來り給ひしとき、百人長進み來りふて、
6 云ひけるは、主よ、我が僕は中風に〔かかり〕て家に臥し、痛く苦めり。
7 乃ちイエス彼に云ひ給ふ、われ到りて癒すべし。
8 然るに百人長答へてべけるは、主よ、我は我が屋根の下に、汝の入り來り給ふに足らず、されど唯一とことばのたまへ、されば我が僕はいやさるるならん。
9 そは我自身の下に兵士をもちながら、我も權の下に在る人なるに、これに往け、と云へば、往き、また別の者に、來れ、〔と云へば〕、來り、また我が僕に、これを爲せ、〔と云はん〕に、爲せばなり。
10 乃ちイエス聞きて驚き給へり。かくて從へる人々にのたまへり、誠にわれ汝等に云はん、イスラエルのうちにさへ、かばかり大なる信仰を見出ださざりき。
11 さればわれ汝等に云はん、多くの者東や西より來り、かくて天國に於てアブラハム、またイサク、またヤコブと共に席に着くならん。
12 されど國の子等は暗に、外に投げ出ださるるならん。そこにて歎くこと、また切齒せつしすることあるならん。
13 かくてイエス百人長にのたまへり、往け、且つ汝の信ずる如く汝になれ。乃ちその時に彼の僕は醫されたり。

14 またイエスはペテロの家に到り給ひて、熱病にて臥せる彼の姑を見給へり。
15 乃ちその手にさはり給へり。されば熱病彼を離れたり。乃ち彼は起てり、且つ彼等につかへたり。
16 またゆふべになりしとき、人々惡鬼に憑かれたる者を多く彼に連れ來れり。されば彼はことばにて靈を逐ひ出だし、且つなやみある者をすべて癒し給へり。
17 是れ豫言者イザヤによりて謂はれたることの成就せらるるためなりしなり、云ひけるは、彼は我等のやまひを受け、またそのやまひを負ひ給へり。

18 またイエス己をめぐれる多くの群衆を見て、向側に去ることを命じ給へり。
19 然るに一〔人〕の學者進み來りて彼にいへり、師よ、いづこにても汝の去り給ふ處に、われ汝に從はん。
20 乃ちイエス彼に云ひ給ふ、狐は穴あり、また空の鳥はねぐら〔あり〕。されど人の子は枕する處なし。
21 また弟子等のうちの他の者いへり、主よ、我に先づ去つて、我が父を葬ることを許し給へ。
22 然るにイエス彼にのたまへり、我に從へ。されど死人をして己自らの死人を葬らしめよ。
23 かくて彼は船に乘り給ひければ、弟子等これに從へり。
24 然るに見よ、海に大なる震動おこれり。されば船は波にて蔽はれたり。されど彼は寢ねておはせり。
25 されば弟子等進み來りて彼を起し、云ひけるは、主よ、救ひ給へ我等亡びんとす。
26 乃ち彼等に云ひ給ふ、信仰小さき者よ、何ぞおくするや。そのとき起きて風と海とを叱し給ひければ、大なるなぎとなれり。
27 されば人々あやしみて云ひけるは、此の〔人〕は如何なる者なるや。風さへ海さへ彼に聞き服はんとは。

28 かくて彼は向側に、ゲルゲセネ人の地に到り給ひしとき、惡鬼に憑かれたる二〔人の〕者、墓より出で來りて往き逢へり。たけきこと甚だし。されば誰もかの道を經て過ぐること能はざりき。
29 然るに見よ、彼等叫び出でて云ひけるは、イエスよ、神の子よ、我等にまた汝に何ぞや。我等を苛責かしやくせんとて、ときに先立ちて此處に來り給ふや。
30 また遙か隔たりて多くの豚の群飼はれてありき。
31 然るに惡鬼ども彼に乞ふて、云ひけるは、汝もし我等を逐ひ出だし給はば、かの豚の群のうちに去り往くことを許し給へ。
32 かくて彼等にのたまへり、往け。乃ち彼等出で來りて豚の群のうちに去りたれば、見よ、豚の群みながけを下りて、海に跳び入り、且つ水にて死ねり。
33 然るに飼ふ者等逃げ、且つまちに去り往き、すべての事と惡鬼に憑かれし者の事とを報じたり。
34 されば見よ、まちこぞりてイエスに出で逢はんとて來れり。かくて彼を見て、彼等の境より移り給はんことを彼等は乞へり。