マタイ傳聖福音(新契約聖書) 第九章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第九章[編集]

1 また彼は船に乘り、渡りて己のまちに歸り給へり。
2 かくて見よ、人々牀に臥したる中風の者を擔ひ來れり。乃ちイエス彼等の信仰を見て、中風の者にのたまへり、兒よ、勇ましかれ、汝の罪は汝に赦されたり。
3 然るに見よ、學者等の或る者己自らのうちにいへり、此の者はけがしす。
4 然るにイエスその思を見てのたまへり、何故に汝等はその心のうちに惡を思ふや。
5 罪は汝に赦されたり、といふと、或ひは、起きて歩め、といふと孰れ易きや。
6 されど人の子は地にて、罪を赦すの權あることを汝等の知るために、そのとき中風の者に云ひ給ふ、起きて汝の牀を取り上げよ、且つ汝の家に往け。
7 乃ち起きて彼は己が家にと去れり。
8 されば諸群衆〔これを〕見て驚けり。かくてかかる權を人に與へ給ひし神を頌めたり。

9 またイエスは彼處よりの途すがら、關税所に坐するマタイと云ふ人を見給へり。かくて彼に云ひ給ふ、我に從へ。乃ち立ち上がりて彼に從へり。
10 かくてかの家にて彼の席に着き給ふことありき。然るに見よ、多くの關税人並に罪人等來りて、イエス及び弟子等と同に席に着けり。
11 さればパリサイの人た見て、弟子等にいへり、何すれぞ汝等の師は關税人並に罪人どもと共に食するや。
12 然るにイエス聞きて彼等にのたまへり、丈夫なる者は醫士の要あらず、されどなやみある者は〔その要〕あり。
13 されば往きて、われ愍を欲して犠牲を〔欲せ〕ず、とは何〔の意〕なるかを學べ。そは我は義しき者を召すために來れるにあらず、されど罪人を悔い改に至らしめんためなればなり。

14 そのときヨハネの弟子等彼に進み來りて、云ひけるは、何すれぞ我等及びパリサイの人々は屡々斷食するに、汝の弟子等は斷食せざるや。
15 乃ちイエス彼等にのたまへり。婚姻の席に在る子等は花聟の彼等と共に在るうちは、悲しむことを得んや。されど花聟の彼等より奪ひ去らるる日到らん、さればそのとき彼等は斷食するならん。
16 また仕立てしことなき切れ地のつぎを、古き衣に置く者はなし。そはその補ひしものは衣より〔布を〕取り蟲りて、裂け目は尚ほ惡しくなればなり。
17 また彼等は新しき葡萄酒を古き皮に入れず。されどもし然らずば皮は破れ、また葡萄酒も流れ出づ。かくて皮も亡ぶべし。されど新しき皮に新しき葡萄酒を入れん、かくて双つながら護らるるなり。

18 彼の此等の事をものがたりておはししとき、見よ、〔一人の〕をさ來り彼に平伏ひれふし、云ひけるは、我が娘は只今死ねり。されど來りて汝の手を彼の上に按き給へ、されば生くべし。
19 乃ちイエス起ちて弟子等と彼に從ひ給へり。

20 また見よ、十二年血漏を患へる婦、後ろに進み來りて、彼の衣のへりに捫れり。
21 そは彼は己自らのうちに、我もし唯彼の衣にだに捫らんには、救はるるならん、と云ひたればなり。
22 然るにイエスふり返り、且つ彼を見てのたまへり、勇ましかれ、娘よ、汝の信仰汝を救へり。乃ち婦はその時より救はれたり。
23 かくてイエスはをさの家に來り給ひて、笛吹く者、また立ち騒ぐ群衆を見て、
24 彼等に云ひ給ふ、退け。そは少女は死にたるにあらざればなり。されど寢ぬるなり。乃ち彼等は嘲笑へり。
25 然るに群衆の出だされしとき、彼は入り來りてその手をとらへ給ひければ、少女は起きたり。
26 かくて此のうわさあまねくかの地に出で來れり。

27 またイエスの彼處より進み給ひしとき、二〔人〕の盲者めしひ從ひ〔來り〕、叫び且つ云ひけるは、我等を愍み給へ、ダビデの子よ。
28 かくて家に到り給ひしとき、かの盲者めしひたち彼の許に進み來りければ、イエス彼等に云ひ給ふ、汝等は我のこれを爲すことを得ると信ずるや。彼等云ふ、然り、主よ。
29 そのとき彼等の目に捫りて、云ひ給ひけるは、汝等の信仰に循ひて〔そのこと〕汝等になれ。
30 乃ち彼等の目開けり。かくてイエス嚴しく彼等に命じて、云ひ給ひけるは、觀よ、誰にも知らしむる勿れ。
31 然るに彼等は出で來りて、遍くかの地に云ひ觸らせり。

32 また彼等の出で往きしとき、見よ、人々惡鬼に憑かれたる唖の人を彼の許に連れ來れり。
33 かくて惡鬼の逐ひ出だされしとき、唖者はものがたれり。されば諸群衆あやしみ、云ひけるは、未だ曾てかかる〔事〕はイスラエルのうちに現はれしことなし。
34 然るにパリサイの人々云へり、彼は惡鬼のをさもて惡鬼を逐ひ出だす〔なり〕。

35 またイエス彼等の會堂にて敎へ給ひつつ、また國の福音を宣べ給ひつつ、また民のうちなるすべてのやまひまたすべてのかよわきを癒し給ひつつ、すべての市々まちまちまた村々を經めぐり給へり。
36 また彼は諸群衆を見て、不便ふびんに思ひ給へり。そは彼等は牧者をもたざる羊の如く、疲れ且つ散り散りなりし故なり。
37 そのとき弟子等に云ひ給ふ、如何にも穫り入は多し、されど働き人は少なし。
38 是の故に働き人を穫り入れ場に、曳き出だし給はんことを、穫り入の主に祈願せよ。