ヘブル人に贈れる使徒パウロの書状(新契約聖書) 第十一章

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第十一章[編集]

1 されば信仰は望むことの根底に存するものにして、視ざる事柄の吟味なり。
2 古の人これをもて證せられたり。
3 我等は信仰をもて、もろもろの世は神の詞にて組み立てられ、視るところの事物は、現はれたる〔事物〕より出づるにあらざることを理解す。
4 信仰をもてアベルはカインより勝れる犠牲を神に献げたり、神その供へ物につきて證し給ひたれば彼はこれによりて義しき者とせられたるなり。されば彼は死にたれども、これによりて〔今〕尚ほものがたる。
5 信仰をもてエノクは死を見ざるべく移されたり、神彼を移し給ひしが故に見出だされざりしなり。そは彼の移さるるより先に、神に嘉せらるることを證せられたればなり。
6 されば信仰を離れては〔神に〕嘉せらるること能はず。そは神に進み來る者は必ず彼のおはすことを信じ、且つ彼は己を索むる者に對して、報となり給ふことを〔信ぜ〕ざるべからざればなり。
7 信仰をもてノアは未だ視ざることの誥を蒙りたれば、畏みて己が家族の救のために方船を備へたり、これによりて彼は世を罪に定め、且つ信仰に循ふ義の世嗣となれり。
8 信仰をもてアブラハムは召されしとき、嗣業として將に彼が受けんとする處にまで出で來るべしとの〔命に〕服ひたり、かくて彼は往くところを知らずして出で來れり。
9 信仰をもて彼は他〔國〕に在るが如く約束の地にやどり、同じ約束をともに嗣ぐ者なる、イサクまたヤコブと共に幕屋に住めり。
10 そは彼は礙ある市、卽ち神がその技士にして工師におはす市を待ち望みたればなり。
11 信仰をもて彼、サラも約束し給ひし者のまことなるを思ひたれば、種を創むるの力を受け、かくて壯の期過ぎて産あり。
12 かるが故に死にたる者の如き一〔人〕より、天の星の如く衆く、また海邊の砂の數へ難きが如く生まれたり。
13 信仰に循ひて此等の者はみな死ねり、未だ約束のものを受けざりしが、遙にこれを見て信じ、且つ喜び迎へ、地にありては旅人なり、またやどれる者なりと告白せり。
14 そは彼等のかく去ふは、古里を索あつつあることを顯ならしむればなり。
15 彼等もしその出で來りしかの〔地〕を憶ひ出でたりとせば、彼等は歸るべきの期ありたるなるべし。
16 されど今彼等は更に勝れるもの、卽ちあめなるものを得んと身を伸ばすなり。かるが故に神は彼等の神と稱へらるることを耻とし給はず、そは彼等のために彼は市を備へ給ひたればなり。
17 アブラハムは試みられしとき、信仰をもてイサクを献げたり、卽ち約束を受けし彼は〔その〕獨子を献げたり。
18 彼に對して「イサクをもて汝のために種と稱へらるべし」と、ものがたられたるなり。
19 〔これ〕神は死人のうちより起すことを得給ふべしと勘へたればなり、それ故に彼はこれを喩のうちに受けたり。
20 信仰をもてイサクも將に來らんとする事に就きて、ヤコブとエソウとを祝福せり。
21 信仰をもてヤコブは死なんとするとき、おのおのヨセフの子等を祝福し、且つその杖の頭に頼りて拜せり。
22 信仰をもてヨセフはいのちの終らんとするとき、イスラエルの子等の出で往くことに就きて憶ひ出で、且つ彼の骨に就きて命じたり。
23 信仰をもてモヲゼの生まれしとき、双親はその美はしき幼兒なるを見、且つ王の仰をも懼れざりしが故に、三つ月の間これを隱したり。
24 信仰をもてモヲゼは大きくなりしとき、パロの娘の子と云はるることを否み、
25 罪の時の間の樂を享けんよりは、寧ろ神の民と同に苦しむことをえらみ、
26 キリストの謗をエジプトに在る寶より尚ほ勝れる富と思へり、そは報を認めたればなり。
27 信仰をもて彼は王の恚を懼れずしてエジプトを措てたり。そは覩ざるものを覩るが如く堅く忍びたればなり。
28 信仰をもて彼は逾越と血を灑ぐこととを爲したり、是れ長子を亡ぼす者の彼等に觸ることなからんためなりしなり。
29 信仰をもて彼等は乾ける〔地を〕過ぐるが如くに、紅海を過ぎ往きしが、エジプト人はこれを試みて呑み盡されたり。
30 信仰をもて七日の間廻りければ、エリコの石垣は崩れたり。
31 信仰をもて遊女なるラハブは、平和をもて間者を受けたれば、服はざる者と同に亡びざりき。
32 さればわれ尚ほ何をか云はん、そはギデオン、またバラク、またサムソン、またエフタ、またダビデ、またサムエル、また豫言者等に就きて具に陳べんには、時足らざればなり。
33 彼等は信仰によりて國々を征服し、義を行ひ、約束を得、獅子の口を閉ざし、
34 火の力を熄し、劒の口を遁れ、弱よりして力づけられ、軍に於て强くなり、他國人の營を退かしめたり。
35 婦等はその死人を甦にて受けたり。また別の人々は更に勝れる甦を得んために、桴にて打ち据ゑられて贖はるることを望まざりき。
36 また或る人々は嘲と鞭と、尚ほまた縲と檻倉との試を受けたり。
37 彼等はいしうたれ、鋸にて挽き裂かれ、試みられ、劒にて切り殺されて死し、羊の皮にて、山羊の皮にて歩み廻はり、乏しくくるしみ苦めり。
38 世は彼等に値せざりき。彼等は荒野に、また山に、また洞に、また地の穴にと復ひたり。
39 されば此等の者はみな信仰によりて證せられたれども、約束のものを得ざりき。
40 是れ我等より離れて、彼等の完うせらるることなきために、神は更に勝れるものを我等のために備へ給へるなり。