ハリー・S・トルーマンの第7回一般教書演説
演説
[編集]始めに、我々が国益のために今年協力するに当たり、優先すべきことについてお話ししたい。
合衆国も自由世界全体も、重大な危機にある。諸君がここ議会でとるあらゆる行動、及び私が大統領としてとるあらゆる行動は、危機への対処に資するか否かという見地から評価されねばならない。
今年は大統領選の年である。即ち、政治が我々の生活に大きな役割を――普段にも増して大きな役割を――果たす年である。確かにその通りである。だが、政争のために国益を害するようなことがあってはならない[3]。
我々は、たとえ見解を異にしようとも、自由な諸制度を破壊したり、平和に向けた超党派的外交政策を放棄したりはしない[4]。
主義主張はそれぞれ違おうとも、我々は皆――共和党員も民主党員も――我々は皆、米国民なのである。そして我々は皆、浮沈を共にするのである[5]。
我々は危機にある。侵略という恐るべき脅威に直面した我が国は、平和を保障された世界の確立に貢献すべく、大事業に着手した。平和こそ我々の目標である――それは代償を要する平和ではなく、自由と正義とに基づく平和である。我々は今、目標達成に向けた取り組みの只中にいる。全体的には上出来であったと言えよう。
昨年、1951年は、我が国が反撃し、軍事力を大いに増強し、世界各地で平和と自由への機運を高めた年であった。
今年、1952年は、自由世界全体の防衛活動における重要な年である。ここで挫折すれば、我々はこれまでに得た全ての利益を失いかねない。勇気と活力と決意を持って前進すれば、1952年末までには、遥かに安全な立場が得られよう。今後数年間の前途は危険なものとなろうが、もし今年――そして来年――最善を尽くせば、我々は強力な防衛を築く上で「峠を越す」ことができよう。
昨年、1951年の記録を見ると、元帳の貸方と借方の両方に重要なものがあるのが判る。我々は大いに進歩してきた。同時に我々は、克服せねばならない新たな問題に遭遇してきた。
まずは貸方の側を見てみよう。
平和は、自由諸国が結束することや、協力して侵略を監視し、戦争を防ぐことに懸かっている。この点において、1951年は大きな成果の年であった。
朝鮮では、国連軍が中国共産党の侵略に――戦闘地域を拡大することなく――耐え抜いた。朝鮮での国連の活動は、第三次世界大戦に対する強力な抑止力となってきた。しかし、朝鮮情勢は依然として非常に危険である。休戦交渉の成果は未だ不透明である。
インドシナ及びマラヤでは、我々の援助は、同盟諸国が共産軍の前進を阻止するのに貢献してきた。ただし同地域には、更なる騒擾の兆候がある。
1951年に、我々は日本との諸条約[6]とオーストラリア、ニュージーランド、及びフィリピンとの防衛協定[7]によって、太平洋地域における平和の可能性を強化した。
欧州では、共同防衛が実現した。自由諸国は、実際の戦闘力を構築した。この力は、未だ充分強い訳ではないが、既に欧州を横切り大西洋に至ろうとしている敵軍の企てに対する実際の障害となっている。
また、1951年には、欧州の安全保障を強化するため、北大西洋条約にギリシャとトルコを加盟させる合意を為した。
世界最大の平和への希望たる国連は、試練の1年を切り抜け、これまで以上に強力かつ有用な存在となった。自由諸国は、憲章を反故にせんとする共産主義者の企てを共同で阻止した。
パリにおける国連の現在の会期にて、我々は英仏と共に、確実な監視体制の下で全ての軍備を削減・統制する計画を提示した。これは、具体的かつ実際的な軍縮案である。
だが、何が生じたか? ヴィシンスキーはそれを嗤った。彼はこう言った。「昨夜はほとんど眠れなかった……何しろ笑いが止まらなかったのでね」と。この人物が軍縮を嗤った光景を、世界はいつまでも忘れないであろう。
軍縮は戯言ではない。ヴィシンスキーの嗤いは、世界中の人々から衝撃と怒りをもって受け止められた。結果、スターリン氏の代理人は、嘲笑をやめて議論を始めよとの命令を受けた。
もしソ連の指導者がこの提案を受け入れるならば、軍備の負担は軽減され、地球の資源は人類の利益のために使用されるようになろう。だが、ソ連が堅実な軍縮案を受け入れて平和的解決に加わらない限り、我々には国防強化以外の選択肢はない。
昨年、100万人以上の男女が米軍に加わった。現在の総数は、350万人近くにのぼっている。我々は、核兵器の分野で急成長を遂げた。我々は、前年の3倍となる、10億ドル相当の軍需物資や装備を生産した。
国の経済状態は良好である。6100万人が職を得ている。賃金、農業所得、及び事業収益は、高水準にある。国内における商品とサービスの総生産高は、昨年より8%――通常の成長率の約2倍――増加した。
恐らく、我々の経済発展に関して最も驚くべきは、基礎的生産能力の増強策である。例えば、我々は現在、アルミニウムの生産量を倍増させ、電力供給を40%増やし、製鋼能力を15%増やす3箇年計画の2年目にある。これにより、米国以外の全地域の合計と同等の、年1億2000万トンの鉄鋼を生産できるようになる。
こうした拡大は、今後全国民がより多くの雇用とより高い生活水準を享受できることを意味する。同時にそれは、平和のために闘う我々及び他の自由世界の力が増大することを意味する。
今度は、昨年の元帳の借方の側に目を向けねばならない。
元帳の借方記入側で注意すべき顕著な事実は、ソ連が1951年に、軍需生産の拡大と、ただでさえ過剰な軍事力の増強とを続けたということである。
確かに、ソ連はいや増す困難に直面した。彼らの敵対的政策は、世界中の自由人民の間に激しい抵抗を惹起した。また、鉄のカーテンの背後では、ソビエトの圧制は衛星諸国の政治的・経済的緊張を増大させた。
それでも、ソ連が軍事力を増強しているという厳然たる事実は残る。同国は、依然として自由諸国より多くの軍用機を生産している。同国は、2度の核爆発を起こした[8]。依然として世界は、更なる世界大戦の影の中を歩んでいるのである。
そして国内では、防衛体制は完成からは程遠い。
1951年中、我々は核攻撃に対する民間防衛体制を充分に構築できなかった。これは、平和に向けた我々の計画の大きな弱点である。何故なら、不充分な民間防衛は奇襲への招待状だからである。充分な民間防衛の提供に関する怠慢は、敵の原爆増産と同じ効果を有する。
防衛生産の分野では、我々は最新鋭の飛行機や戦車の設計・製造に手間取った。一部の工作機械と金属は、依然として極度に不足している。
他の自由諸国では、防衛力増強は深刻な経済問題を惹起した。欧州のインフレーションを悪化させ、同盟諸国の持続的回復を危機に曝した。
中東では、政治的緊張とイランでの石油紛争[9]による地域的混乱が続く。極東では、共産帝国主義の暗い脅威が、依然として多くの諸国に迫っている。
端的に言って、これが事態の良い面と悪い面である。
良いことも悪いこともあったが、我々は昨年、平和への道に沿った着実な進歩を遂げてきた。我々は、自由世界の力と結束を増進してきた。その間、我々は世界大戦を回避する一方、宥和をも回避してきた。これは困難な道だが、昨年の出来事の数々は、それが平和への正しい道であることを示している。
この任務が一夜にして完了するなどとは思ってはいない。自由諸国は長い間、侵略阻止に必要とされる軍拡を続けねばなるまい。世界中の自由諸国間の政治的連帯と経済的発展のため、我々は何年にも亙って着実に取り組まねばならない。
我々の任務は容易ではあるまい。だが、意志を持って取り組めば、着実な進歩が期待できよう。我々の側には、自由という偉大な資質――宗教と民主主義との理想、より良い生活への願い、自由文明の工業力や技術力――がある。
こうした強みは、隷属世界が生み出し得る何物にも優っている。我々を打倒し得るものはただ1つ、我々自身の精神状態のみである。怯めば負けるのである。
このような大きな国家的取り組みの中期は、非常に困難な時期である。道は長く険しかろう。目標は遥か彼方であろう。中には落胆する者もいるが、無理からぬことである。
だが、平和のための闘争を緩めるべきだと考える者が国民の中にいるのならば、彼らには3つのこと――たった3つのこと――を思い出して欲しい。
第1に:世界大戦の脅威は、依然として非常に現実的である。我々は真珠湾を経験した[10]――2度と奇襲されないようにしよう。もしも共産軍の脅威が本物だと思わないのならば、朝鮮からの帰還兵数人と話してみるが良い。
第2に:もしもソ連に支配された世界に合衆国が単独で対抗せざるを得なくなれば[11]、我々の知る生活や、我々が奉ずる理想は崩壊する。同盟諸国にとって我が国が不可欠であるのと同様、我が国にとっても同盟諸国が不可欠である。仲間が多ければ、負担も軽くなるのである。
第3に:我々が深く信じているものは、容赦なき攻撃に曝されている[12]。我々には、己の文明の基本的道徳と精神的価値とを保持する大きな責任がある。我々は――史上類のない平和への計画を――首尾良く開始した。己を信じ、己が明言する信念を信じるならば、成功に終わるまで我々はやり通す。
今は勇気を出すべき時なのであって、不平不満を漏らすべき時ではない。
では、為すべきことに目を向けてみよう。
我々全員の心にまず思い浮かぶものは、朝鮮情勢である。我々は侵略に終止符を打ち、米軍の安全と大韓民国の安全とを保護する休戦を得るまで、かの地で戦闘を続けねばならないし、続けるつもりである。更に我々は、国連の諸原則に添った形で朝鮮での講和のために働き続ける。
この世界で自由を維持するには共産主義の侵略に断固として対峙せねばならない。そのことを知っていたが故に、我々は朝鮮に介入したのである。我々は、国連の下で成立した自由主義国たる大韓民国を救うべく、戦争に突入した。それが我々の目的である。目的を達成するまで、我々は諦めない。
一方、我々は世界中で自由主義勢力を強化し続けねばならない。
私は、日本の平和条約[13]に関して、太平洋諸国との安全保障条約に関して、そして北大西洋条約にギリシャとトルコを加盟させる協定に関して、上院が迅速かつ有益な措置を取るよう希望する。
我々は、ドイツ連邦共和国とも協定の交渉をしている。協定が成立すれば、ドイツは諸国間で名誉ある平等な役割を果たし、西欧防衛に参画できるようになる。
だが条約や計画は、我々の防衛構造の骨格に過ぎない。防衛にとっての腱や筋肉とは軍隊と装備なのであって、これらが備わっておらねばならない。
欧州においては、友邦や同盟諸国の軍事力増強を援助し続けねばならない。これは、我々が欧州の同盟諸国に大量の兵器を供与せねばならないことを意味する。私は、欧州への武器供与を優先的に行うよう命じた。欧州を我々の共同防衛における有力な協力者とするに当たり、成功と失敗との間の乖離を埋めるためには、経済援助も不可欠である[14]。
長期的には、我々は欧州が我々の援助への依存から解放されることを願っている。欧州の同盟諸国もそのことを、我々と同じくらい切に願っている[15]。現在、欧州統合のために採られている措置は、これに貢献するであろう。欧州6ヶ国[16]はシューマン・プランの下、石炭や鉄鋼を共同利用している。大陸の欧州諸国軍を単一の軍に統合する作業も進んでいる。これらの大規模計画は、1952年中に実現するであろう。
我々は、欧州が強く結束するのを全力で支援し、促進せねばならない。
アジアでは新興共産帝国が、数百万人民に対する日々の脅威となっている。アジアの人民は、己の生活様式に従って自由に生きたいと願っている。我々が己の文化を保持したいのと同様に、彼らも共産主義に抗って己の文化や伝統を保持したいと願っている。彼らは、大きな障害――貧困、病、封建的土地所有、国内での転覆や国外からの攻撃の脅威――に喘いでいる。我々は彼らへの援助を増やせるし、増やさねばならない。
このことは軍事援助、殊に新たな共産勢力の攻撃によって最も大きな打撃を受ける可能性のある、インドシナのような地域に対する軍事援助を意味する。
同時にそれは、技術的知識と設備投資の両面における経済援助をも意味する。
昨年我々は、インドの飢饉を緩和すべく、数百万ブッシェルの小麦を提供した。だが長期的には、インドの農民自身による穀物増産を支援すべく米国人がインドで行っている仕事の方が、遥かに重要である。我が国の技術者の支援により、インドの農民は簡素で安価な手段を使用し、インドのある地域では1948年以降、収穫量を倍増させた。同地の農民は、従来の平均が1エーカー当たり13ブッシェルだった小麦の生産高を、63ブッシェルにまで引き上げた。
これがポイント・フォア――進行中のポイント・フォア計画――である。それは――インドでのみならず、イラン、パラグアイ、リベリアなど――、世界33ヶ国で進行している。我が国の技術使節団が、これらの地にいる。彼らのような者がもっと必要である。彼らの取り組みを促進するには、資金がもっと必要である。何故なら、我が国の外交政策において、これ以上重要なものはないからである。我々が何を支持し、何を成就したいのかを、これ以上に明確に示すものは他にない。
議員諸君よ。第二次世界大戦における戦費の3分の1未満の支出によって、全世界を養うために必要とされる発展が生まれ、我々が共産主義を耐え忍ぶ必要はなくなった[17]。それは我々が戦わなければならない戦闘であり、その戦闘に勝たない限り、我々は冷戦にも熱戦にも勝てないのである。
最近我々は、偉大な公務員を失った。彼は、世界の半分の人民に機会と希望をもたらすべく、この取り組みを主導していた。ヘンリー・ベネット博士とその同僚が、ポイント・フォアの任務中に殉職したのである。彼らが命を捧げた大業を続けられるか否かは、我々次第である。
今後我々は、鉄のカーテンの背後に生きる人民の苦難を忘れてはならない。これらの地域では、少数民族は抑圧され、人権は侵害され、宗教は迫害されている。我々は、こうした不正を暴き続けねばならない。我々は、全世界の人民に希望と真実の伝言をもたらすヴォイス・オヴ・アメリカの活動を継続・拡大せねばならない。
こうした多くの世界的問題について、チャーチル首相と話す機会があった。一連の会談には実に満足している。我々は欧州、中東、及び極東の情勢を徹底検証した。我々は共に、自由諸国の協調的行動と連携を通じた、平和への着実な前進を期待している。
外交政策から離れて、平和に向けた計画の一環としての、国内業務について考えるとしよう。
これらの業務で最初のものは、防衛計画に全力で取り組むことである。
我々の目的は、自国が攻撃された際に、侵略を阻止して直ちに敵に壊滅的損害を与えられるような、装備の整った大規模な防衛軍を――同盟国軍と協力して――持つことである。この防衛軍は、充分な予備軍によって、そして戦時に必要となる膨大な新兵器を生産するための工場や機器によって裏付けられねばならない。我々は全面戦争を行うに充分な防衛軍を構築できていないが、必要とあらば、迅速に動員できるようになっている。
私は今年、構築途上にある防衛軍の規模拡大、殊に空軍力の増強を勧告する。これは、当初の計画よりも長期に亙って、飛行機などの装備の大量生産を継続せねばならないことを意味する。
飛行機や戦車などの兵器――軍が「耐久消費財」と称するもの――は、現在大量生産が始まっている。耐久消費財の納入額は現在、毎月約15億ドルに達している。1年後には倍増するであろう。
我々は、その後約1年間、軍需生産を高率に維持せねばならない。1954年には充分な装備を有し、大部分の軍需物資の生産を大幅に減らせるようになるよう望む。故に今後2年間は、防衛生産の絶頂期となるであろう。
防衛需要は、鉄鋼、アルミニウム、銅、ニッケルなどの希少な物質を大量に消費するであろう。これは、若干の民需物資の生産縮小を意味する。削減は、大半の民需生産が完全に停止した第二次世界大戦中ほどにはならない。だが一部物資は、過去2、3年間よりも大幅に少なくなるであろう。
本年の防衛政策の核心は、インフレーションの抑制である。
強い意志があれば、我々はインフレーションを制御できる。
行政府としては、法律が許す限度まで物価水準を引き締める所存である。我々は、確固たる安定化政策の下で明らかに正当とされる賃上げのみを許可する。また、企業が値上げを許可される前に、可能な限り企業が費用の増加分を収益から吸収するようにする。いずれにせよ我々は、最近の法改正によって更なる賃上げが特に必要となる場合を除き、これらを行う所存である。
議会には、この問題に対して重大な責任がある。我々の安定化法は、前会期で多くの欠点を指摘された。今年は、傷を修復して、強力な反インフレーション法を制定することが、議会の主たる任務の1つとなろう。
国力強化計画の一環として、政府の財政力を維持する。これは、今後数年間の増税を意味する。我々は、これらの税が国民の間で可能な限り公平に分担されるよう努めねばならない。こうした問題については、近く議会に提出する経済報告と予算教書にて論ずる所存である。
我が国の税法は公正でなければならない。そして、我々は、誰に恐れることも媚びることもなく、税法の公正な運用を保証せねばならない。そのために、税法の運用において明らかになった問題に対する措置が取られた。加えて、内国歳入庁再編計画を議会が承認するよう望む。あらゆる納税者が法の下で平等な待遇を受けられるよう、手を尽くさねばならない。
防衛という負担を担うためには、米国経済は強く生産的で、しかも拡大せねばならない。米国を今日のような強大な国家にした要因を無視する訳にはゆかない。
我が国の力は自国民の健康、士気[18]、自由に懸かっている。我々が世界平和のための闘争を主導する負担を引き受け得るのは、約20年間に亙って、政府も人民も公益のために協力してきたからである。我々は、適切で、有益で、生産的な生活への平等な機会を、国民に提供してきた。だからこそ、我々は今も強くいられるのである。
我が国の統治機関は――議会も省庁も――全国民に公平な待遇をもたらすために働き続けねばならない。今年は福祉に充てる時間も金もないと言い出す者もいよう。だが平和のための闘争に勝ちたいならば、これは我々が無視できない任務の一部である。
我々は一部のものを諦めねばならないし、別のものに関してはより遅い速度で進まねばならない。だが少なくとも私は、我々が国力に不可欠なものを諦められるとは思わない。
私は、大半の国民がこれに同意してくれると信ずる。
恐らく大半の農家が理解していよう。土壌保全や農村電化、農業研究は虚飾でも贅沢品でもなく、農業生産を高める真の必需品であるということを。
恐らく大半の労働者が理解していよう。まともな住宅と良好な労働条件は決して贅沢品ではなく、この国の労働者が他の世界を上回る生産を続けるための必需品であるということを。
恐らく米国の経営者は知っていよう。こうした科学研究、運輸、製鉄所の増設、及び電力計画は決して贅沢品でなく、我が国の商工業を発展の最前線に保つ必需品だということを。
恐らく誰もが知っていよう。社会保険や、より良い学校と医療は決して虚飾ではなく、全国民を有益かつ生産的な――我々の生活様式を保護・増進するための国家的取り組みに貢献できるような――市民にするための必需品であるということを。
このような時期にあっては、欲することを全て為すことなど出来ない――我々は専ら防衛に寄与することを選ばねばならない。だが、今後も強国であり続けるには、我々は前進を続けねばならない。
いくつか例を挙げよう。
我々は、自国の天然資源を開発し、自国の土壌を保全し、洪水を防止するために、緊急に必要とされた仕事を進めている。必須電力を生み出し、農場や工場に配電するために必要な電線網を構築する所存である。新たな鉱床の探査を奨励する所存である。
充分な交通体系――陸海空における――を国民に保証すべく、重要国道[19]の敷設などの施策を継続する所存である。
我々は今年、軍属や兵士の家族が安価な家賃でまともな住宅を取得できるよう取り組まねばならない。
我々は、長いこと延期されてきた教育への連邦助成計画――現在の学校運営上の危機対処を国が支援する計画――を開始せねばならない。同時に、防衛活動にとって極めて重要な地域における学校建設を支援せねばならない。
我々は医学教育への援助を通じて、より多くの医師その他の医療従事者を緊急に養成する必要がある。また、国内の地域社会で――特に防衛分野で――基礎的公衆衛生を緊急に拡大する必要がある。議会は、これら2つの措置を直ちに進めねばならない。
私は、国民の医療需要を徹底調査する超党派委員会を設置した。同委員会の調査対象の1つは、如何にして現代医療の費用を全国民の手の届く範囲にまで引き下げるかということである。最善の策として、私は国民健康保険制度を繰り返し勧告してきた。私の知る限り、それは依然として最善の策である。より良い答えがあるならば、私は同委員会がそれを見出すことを望む。だが、これだけは言える。何らかの対策が早急に必要である[20]。
今年、我々は社会保障法について緊急に多くの改善を為すべきである。その1つとして、老齢年金や遺族年金の給付は、現在は月平均で42ドルであるが、5ドル引き上げるべきである。それから、公的支援の支出増加を支援するために、各州に特別援助を与えるべきである[21]。現在これらをすることによって、我々はそれらの定期支出に依存する人々に対し、生活費という重圧を緩和できる。
また、軍務中に起こった死亡または障害に対する補償を受給している者のため、若干の生活費調整をすべきである。更に、朝鮮戦争勃発時から軍務に就いてきた復員兵のための調整給付の賢明な計画を開始すべきである。
議会が本会期中に為さねばならないもう1つのことは、防衛上の非常事態に対処するために農産物価格維持体制を強化することである。価格維持法の「変動制」が、防衛需要を満たすために増産した農民を害するようなことはあってはならない。また、現行法が定めるよりも新規かつ費用の掛からない、生鮮食品(の価格)を下支えする方策を見出さねばならない。
我々は、労働法改正のため早急に行動する必要がある。タフト=ハートリー法には、多くの深刻かつ広汎な欠陥がある。これは経験からも明らかであり、同法の支持者すらも改正の必要性を認めているほどである。公平な法律、労使双方に対して公平な法律は、健全な労使関係にとって、そして完全かつ不断の生産にとって不可欠である。私は公平な法律を得るまで取り組み続ける所存である。
我々は、世界の自由を防衛すべく国力を増強する一方で、自国民全ての間でも自由の恩恵を拡張せねばならない。公民権の付与拡大のため、行動を起こす必要がある。自由は、米国民全ての生得権なのである。
行政府は、待遇と機会との完全な平等に向け――軍において、公務において、そして、政府のために働く民間企業において――着実に進歩してきた。更に前進するには議会の行動が必要であり、上下両院議員がそれらについて採決することを望む[22]。
コロンビア特別区の自治が上院の第一の議題となるのは何よりである。ハワイとアラスカの州昇格と同様、速やかに採択されるよう望む。
私が主張してきたこれら全ての措置――米国民の幸福を促進する措置――は、我々の自由社会の進展を世界に示すものである。
自由な人民が自らの手で統治するという方法を実証することは、世界の人民――鉄のカーテンの両側における――に、共産主義者によるあらゆる偽りのスローガンや絵空事の約束よりも強い影響を及ぼす。
だが、我々の進歩と同様に我々の欠点も海外から注視されている。そして私は、ある欠点について率直に言いたい。
他の如何なる政府よりも優れている米国政府が、公務員間の不正を容認する訳にはゆかない[23]。
ほとんどあらゆる人的組織に、一部の不誠実な人々が入り込んでいる。しかし、更に衝撃的なことに、皆に正義をという原則に基づく米国政府のような政府にも、彼らは入り込むのである。こうした無益な公務員は排除されねばならない。私は、不正行為を犯した連邦政府職員が罰せられることを望む。また、多くの誠実かつ勤勉な連邦政府職員が偏狭な中傷や悪質な攻撃から保護されることを望む。
これらの目的を達成すべく、私は議会に対する勧告をいくつか為した。この目標のため、更なる勧告を提出する所存である。この取り組みに対する議会の全面的協力を歓迎する。
また、我が国の諸機関に対する信頼を強化するために議会にできることは多くあると考える。議会自身の活動の道義的整合性に関する厳格な基準を適用すること、選挙運動費を規制する有効手段を見出すこと、議会調査の際に個人の権利を保護することなどである。
現在世界に迫っている危機に対処するには、多様な力――軍事的・経済的・政治的・道義的な――が必要である。中でも私は、道義的な力が最も不可欠だと確信している。
つまり、それは米国民の――そして個々人の――勇気と国民性である。この試練にどう対処するかは、これらの資質に懸かっているであろう。
我々は国内外で大業――如何なる国も為し得なかったほどの――に従事している。我々は、世界に平和をもたらし、正義と自治という民主主義の理想を全人類に広めるべく、日夜取り組んでいる。我々は、既に目覚ましい業績を挙げている。我々は己の行動への矜持、そして結果への自信と希望を持つべきである。如何なる国も、それを鼓舞する多くの資源、多くの気力、崇高な伝統を米国ほどに有したことはない。
だが我々は、「我が国は道に迷ってしまった」「我が国はどうすれば良いのか判らない」「我が国は破滅に向かっている」と嘆き叫ぶ、臆病な人民の長い行列を明けても暮れても目にする。「我々は平和のための戦いを諦めねばならない」と言う者もいれば、「我々は戦争をして片を付けねばならない」と言う者もいる。恐ろしい意見である。私はそうした意見が為されるのを聞いてきた[24]が、彼らは更なる世界大戦を防ぐという大きな目的を――米兵が朝鮮の丘で戦ってきた、その目的を――我々が忘れることを望んでいるのである。
もし我々が、戦場にある自国兵士によって我々のために為された全てのことに相応しい存在たらんとするならば、彼らが勝ち取ろうとしている理想に忠実でなければならない。敗北と絶望の奨めを拒絶せねばならない。兵士らが命と引き換えに為した偉業を完遂する決意を持たねばならない[25]。
何を為すに当たっても、我々は己が何者なのか、何を支持するのかを忘れてはならない。我々は米国人である。我々の祖先は我々よりも遥かに大きな障壁に直面しており、成功の可能性は遥かに乏しかった。彼らは落胆も、目標から顔を背けることもしなかった。米国史の冬の時期における暗黒の中、フォージ渓谷[26]にてジョージ・ワシントンは言った。「この偉大な戦闘において、陽光以外の何物をも期待するな」。その精神によって、彼らは自由のための闘争に勝利したのである。
我々は、同じ信念と展望を持たねばならない。我々は、今日従事している偉大な戦いにおいて、常に晴天であることを期待できない。だがそれはこの国及び全国民にとって、ジョージ・ワシントンが勝利に向けて行った死に物狂いの苦闘と同じくらい重要な戦いなのである。
我々が単なる陽光下の愛国者、夏場の兵士でないということを、改めて証明しよう。目指す目標に至るために、平和の神を信じて進もうではないか。
訳註
[編集]- ↑ アルバン・W・バークリー(任1949年 - 1953年)。
- ↑ サミュエル・T・レイバーン(任1949年 - 1953年)。
- ↑ 原文は「But we have a greater responsibility to conduct our political fights in a manner that does not harm the national interest」。逐語訳をするならば、「だが我々は、国益を害さない方法で政争を行うという、より大きな義務を有する」。
- ↑ 原文は「We can find plenty of things to differ about without destroying our free institutions and without abandoning our bipartisan foreign policy for peace」。逐語訳をするならば、「我々は、我々の自由な諸制度を破壊することなく、また平和のための我々の超党派的外交政策を放棄することなく、多くの異なるものを見出すことができる」。
- ↑ 原文は「we are all going to sink or swim together」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「(我々は)いちかばちかという道を進んでいる」としているが、原文は民主党員も共和党員も一蓮托生であることを説いているのであり、「sink or swim」を「いちかばちか」と訳すのは、ここでは誤り。
- ↑ 日本国との平和条約(通称「サンフランシスコ講和条約」:1951年9月8日調印)及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(通称「旧安保」:1951年9月8日調印)を指す。
- ↑ 太平洋安全保障条約(通称「ANZUS」:1951年9月1日調印)及び米比相互防衛条約(1951年8月30日調印)を指す。
- ↑ РДС-2(1951年9月24日実施)及びРДС-3(1951年10月18日実施)を指す。
- ↑ イランでは1951年に首相に就任したモハンマド・モサッデグの主導の下、石油国有化法が成立した。これにより、英国政府が有していたアングロ・イラニアン石油会社の権益はイランに奪われ、英国とイランとの対立が先鋭化した(アーバーダーン危機)。
- ↑ 1941年12月8日(日本時間)、日本海軍はハワイの真珠湾にあった米国海軍基地を空襲し、壊滅的損害を与えた。
- ↑ 原文は「If the United States had to try to stand alone against a Soviet-dominated world」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「もし米国が、ソ連支配下の世界に単独で立ち向かわないとするなら」としているが、正しくは「単独で立ち向かわなければならないなら」である。
- ↑ 原文は「The things we believe in most deeply are under relentless attack」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「われわれが真剣に考えるべきことは、容赦のない攻撃にさらされていることである」としており、「The things we believe in most deeply」を誤訳している。
- ↑ 日本国との平和条約を指す。
- ↑ 原文は「Economic aid is necessary, too, to supply the margin of difference between success and failure in making Europe a strong partner in our joint defense」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「ヨーロッパをわれわれの共同防衛の有力な協力者にするためには、成功や失敗の相違はあっても、経済援助が絶対に必要である」としている。
- ↑ 原文は「Our European allies want that just as bad as we do」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「ヨーロッパの同盟国も、われわれから援助を受けるのを不面目であると考えている」としている。「とても、ひどく」を意味する副詞「bad(badlyと同義)」を、「悪い」を意味する形容詞と誤って解釈したためと考えられる。
- ↑ フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク。
- ↑ 原文は「My friends of the Congress, less than one-third of the expenditure for the cost of World War II would have created the developments necessary to feed the whole world so we wouldn't have to stomach communism」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「連邦議会の私の友人たちは、第二次世界大戦の費用のため支出の3分の1を工面し、共産主義者を忌み嫌う全世界を自由にするのに必要な発展に貢献した」としている。原文の主語(より正確には「主格を成す名詞句」)は「less than one-third of the expenditure for the cost of World War II」であるが、同書は「My friends of the Congress」を主語としている。また、「feed」を「自由にする」と誤訳したほか、「stomach communism」を「共産主義者を忌み嫌う」と訳し、「全世界」に掛かる修飾語としてしまっている。
- ↑ 原文は「morale」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「倫理」と訳しており、「moral」と混同している。
- ↑ 原文は「essential highways」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「重要な高速道路」としているが、「高速道路」に相当する米国英語は「express way」または「free way」。
- ↑ 原文は「something must be done, and done soon」。逐語訳をするならば、「何かが為されねばならない。しかもすぐに」。
- ↑ 原文は「the States should be given special aid to help them increase public assistance payments」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「州は公的扶助の支出増大に対応するため、特別助成金を与えなければならない」としているが、正しくは「与えなければ」ではなく「与えられなければ」である。
- ↑ 原文は「I hope that means will be provided to give the Members of the Senate and the House a chance to vote on them」。逐語訳をするならば、「私は、それらについて採決する機会を上院及び下院の議員に与えるための手段が提供されるよう望む」。
- ↑ 原文は「Our kind of government above all others cannot tolerate dishonesty among public servants」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「いかなる種類の政府であれ、特に公務員の不正を黙認することはできない」としている。「above all others」を「特に」と訳し、「公務員の~」の節に掛かる修飾語としているが、正しくは「above all others」は「Our kind of government」に掛かっている。ここでいう「others」は、「他国の政府」を意味する。
- ↑ 原文は「I had heard it made」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「私はそれに耳を貸さない」としているが、誤りである。
- ↑ 原文は「We must have the determination to complete the great work for which our men have laid down their lives」。『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻』は「われわれは、米兵が生命をかけて偉大な業務を完遂しようとする決意を知るべきである」としているが、「determination(決意)」を持つのは「our men(米兵)」ではなく「We(我々)」である。
- ↑ フォージ渓谷 (Valley Forge) とは、ジョージ・ワシントン率いる大陸軍が独立戦争中の1777年から1778年に掛けての冬場に野営した場所である。
- 底本
- トルーマン図書館内資料
- 藤本一美、濱賀祐子、末次俊之『資料:戦後米国大統領の「一般教書」 第1巻 「ルーズベルト、トルーマン、アイゼンハワー」1945年~1961年』 大空社、2006年、ISBN 4-283-00451-0
- 訳者
- 初版投稿者(利用者:Lombroso)
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