シリヤの聖イサアク全書/第七十説教

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第70説教[編集]

<< 夜間やかん儆醒けいせいおこなひの愉快ゆかいによりかみ接近せっきんひと顕然けんぜんたるもの行路こうろことおよとうしゃはその生活せいかつすべてのみつにてやしなはるること。 >>


ひとよ、すべて修道しゅうどうところおい夜間やかん儆醒けいせいより重要じゅうようなるなんらのつとめかありととおもふなかれ。じつ兄弟けいていよ、儆醒けいせい節制者せっせいしゃため重要じゅうようにしてもっとべからざるなり。もし苦行くぎょうしゃ身体しんたいぞくすることざんるものとをおもんばかるがため分心ぶんしん擾乱じょうらんすることあらずして、おのれよりまもり、儆醒けいせいもっおのれするならばその智力ちりょく暫時ざんじ飛揚ひようすること羽翼うよくしょうずるごとくにして、たかかみたのしむにいたり、かみえいするにすみやかにたっすべくして、うごかしやすきとかろきとにより人間にんげん理解りかい超越ちょうえつする知識ちしきらん。もし修道しゅうどうりょもっ儆醒けいせいつとむるならば、おのれること肉体にくたいゆうせざるものごとくなるべし。けだしこれじつ天使てんし品位ひんい行為こういなり。つとめに全生ぜんせいおくものはその覚醒かくせいと心の不眠ふみんとその意思いしかみもっぱむかはしむるとにより、だいなるたまものなくしてかみてらるるあたはざるなり。この儆醒けいせいつとむるにみづからろうこれもっ卓越たくえつする霊魂れいこんヘルウィムごとゆうし、視力しりょくだんたかめて、てん観場かんじょう直覚ちょっかくせん。

おも知識ちしき思慮しりょとをもっだいなる神聖しんせいろうえらおもきをおのれになはんと決心けっしんしたるものは、えらべる頌讃しょうさんすべきこうおい格闘かくとうして、ひる集会しゅうかい擾乱じょうらん事物じぶつ懸念けねんとよりおのれせざることあたはざるべし、しからずんばこれによりけんをこいねが奇異きいなるだいなるたのしみとをうしなふのおそれあるによる。こと等閑とうかんにするものにつきては、あえはん、かれろうすると、ねむりをきんずると、さんうたつづくると、したくるしむると、徹夜てつや叩拝こうはいとをもっおのれつからすの何故なにゆえなるをらずして、かえつてそのこころ聖詠せいえいうたふにも祈祷きとうにもかかはるなく、あたか習慣しゅうかんによりみちびかるるもののごとく、無思むしりょろうするものなりと。ひしごとくならずんばかれ毎々まいまいろうしてたねくにかかはらず、だいなる恩恵おんけいじつるのちからとをうばはるるは、何故なにゆえなるか。けだしもしれらのねんえて神聖しんせいなるしょ誦読しょうどく黽勉びんべんし、これもっかため、こととうため灌漑かんがいとなりてとう密着みっちゃく合同ごうどうするととも光明こうめいあたふる儆醒けいせいたすくるならば、この誦読しょうどくによりただしきみちむかつて教導きょうどうしゃべく、祷的とうてき直覚ちょっかく存養そんようするすべてのため種子しゅしとなるべきものと、意思いし高超こうちょうより遮止しゃしすべきものとをて、旋回せんかいしてえきなるものにやしなはるるをゆるさざるべく、かみおも記憶きおくだん霊中れいちゅうき、しんよろこばしめたるしょ聖者せいしゃみち指示しじして、鋭敏えいびん聡慧そうけいとをるにいたらん、一言いちげんにてこれをへばかくのごとこう成熟せいじゅくなるじつん。

ひとよ、何故なにゆえにかく無思むしりょおのれしょするか。よる徹夜てつやはいおこなひ、詩章ししょう歌頌かしょうがんもっみづからろうすれども、ひるいたざん勉励べんれいによりひとともくるしむがためかみ恩寵おんちょうたまはるをなんじには難渋なんじゅうにして容易よういならざるもののごとおもふか。何故なにゆえなんじみづからろうして夜間やかんくも、ひるいたりそのろうほろぼして結果けっかなるものとなり、そのたるところみん惺々せいせいたるこころ熱愛ねつあいとを浪費ろうひし、ひとものとにせっするのわづらはしきをもっいたづらにおのれろうほろぼして、これためなにかくたる弁解べんかいもあるなきか。けだしなんじため日中にっちゅうところ心的しんてきだん熱愛ねつあいとは夜間やかん練習れんしゅう相応そうおうするものとなりて、彼此かれこれあいだ間歇かんけつあるなくんば、なんじイイススふところとうずるをん。

さりながらなんじ無思むしりょ生活せいかつすると、修道しゅうどう徹夜てつやせざるべからざるは何故なにゆえなるをらざるとはこれにより明了めいりょうなり。なんじ此事このことさだめられしはただなんじくるしめんがためにてこれよりしょうずるなんゆえにもあらずとおもふ。しかれども苦行くぎょうしゃらがなん希望きぼうもっ睡眠すいみんこうし、天性てんせいひてその身体しんたい意思いしみんなる状態じょうたいによりまいそのねがひをささぐるの何故なにゆえなるを恩寵おんちょうかくするをたまはりしものは、日中にっちゅう保護ほごちからるべく、こは夜間やかん黙想もくそうにより如何いかなるたすけあたへ、思想しそううえ如何いかなるけんりて如何いかなる浄潔じょうけつたっすると、ふるなく、たたかふなくして徳行とくこうむれ如何いかあたへらるるとをり、思想しそうとうときを自由じゆう認識にんしきせん。しかしてこれくはへてはん、もし身体しんたいりょくためよわりて禁食きんしょくするあたはざらんときは、いつ警醒けいせいもっ霊魂れいこんそんにみちびき、こころかいあたへて霊神れいしんじょうちからかくするをん。ただねがはくは日中にっちゅう反抗はんこうする事故じこぞうするがためほろびされざらんことを。

ゆえにかみまえ惺々せいせいたるこころ新生命しんせいめい認識にんしきとをんとほっするなんじねがふ、なんじ畢生ひっせい儆醒けいせいつとめておこたるなからんことを。けだしこれによりなんじひらかれて、この生涯しょうがいのすべてのさかえ正義せいぎみちちからとをんとすればなり。しかれどももし〔ねがはくはれあらざんことを〕なんじたいねんふたたしょうずるあらば、おそらくはかれなんじつくらん、なんとなればすべてかくごときをつねなんじゆるなんじ扶助者ふじょしゃなんじこころみんとほっするによる、なん理由りゆうによりなんじあるい熱愛ねつあいあるい冷淡れいたんへんずるか、あるい身体しんたい薄弱はくじゃくによるか、あるいつねなんじ執行しっこうする聖詠せいえいうたつづくることと、こころむるとうと、なんじおこなふにれたるすうはいろう忍耐にんたいするがためちからとぼしきによるか、これこころみんとほっするによる、ゆえにあいもっなんじねがふ、もしなんじこのちかららずして、これぐるあたはずんば、すといへども警醒けいせいし、こころにてとうせよ、ねむりくなかれ、すべての方法ほうほうもちい、して善良ぜんりょうなる思想しそうりつつ、みんもっおくるべし。そのこころかたくなにするなかれ、睡眠すいみんもっこれくらますなかれ、しからば恩寵おんちょうぜん熱愛ねつあい軽快けいかい能力のうりょくとはふたたなんじきたりて踊躍ようやくし、かみ感謝かんしゃしつつおほい悦懌えつえきせん、なんとなればこの冷淡れいたん如此かくのごとき悒鬱ゆううつ[1]とはひとけんかつたんするがためゆるさるるものなればなり。もしひとおのれふんし、熱愛ねつあいすこしくおのれふるとをもっこれおのれよりふりおととすならば、恩寵おんちょうかれちかづくことぜんごとくなるべくして、すべての幸福こうふく種々しゅじゅたすけのかくるる能力のうりょくきたるあらん。さらばひとぜん悒鬱ゆううつとそのへんぜし軽快けいかい能力のうりょくとをそうし、この差異さいと、うごかしやすきと、かくのごとへんにわかおのれけたることを想像そうぞうし、愕然がくぜんとしておどろかん。さらば此時このときより聡慧そうけいなるものとなるべくして、もしかくごとくなる悒鬱ゆううつひとおこるあらば、さき経験けいけんによりこれらん。しかれどもひと初度しょど奮闘ふんとうせずんば、この経験けいけんあたはざるべし。ひと身体しんたいせい衰弱すいじゃくせざるかぎりは、すこしくおのれふんしてせん忍耐にんたいするならば、いくばくか智慧ちえけらるるをるか。しかれどもはや争闘そうとうにはらず、薄弱はくじゃくためむをざるなり。けだしあい天性てんせいたたかふはえきなきなり。さりながらのすべてのあいおいてはすべてのひと有益ゆうえきなるものにおのれふるはひとためはなはぜんなりとす。

だん黙想もくそうあわせて読経どくきょうすると、節制せっせいしてしょくむると、儆醒けいせいとは、その黙想もくそうやぶるべきなんらの事故じこもあらずんば、すみやかに意思いし鼓舞こぶして愕然がくぜんたらしめん。黙想もくそうするものらにあらかじつとむるなくして自然しぜんしょうずる意思いしは、そのながるるなみだとそのまぶたあらとみとにより両眼りょうがん洗盤せんばんごとくならしめん。

しかれどもなんじ身体しんたい節制せっせい儆醒けいせい黙想もくそうもっぱらなるとによりしずめらるれど、なんじ身体しんたい天然てんねん感動かんどうにあらずして放蕩ほうとうなる慾念よくねんおこるあらば、るべしなんじ驕傲きょうごう意思いしもっこころみらるるを。そのしょくはいし、そのはらけ、なんじなにねんしたるを探求たんきゅうして、そのせい変化へんかとその天然てんねんもとようとをしんせよ。そのときおもふにかみなんじあわれみなんじひかりつかはして、なんじ謙遜けんそんまなばしめ、なんじつみなんじ成長せいちょうせざるべし。ゆえにみづから悔改かいかいみとめず謙遜けんそん見付みつけずして、われらのこころかみやすんずるにいたらざるあいだは、奮闘ふんとうして尽力じんりょくするをとどめざらん。かれ光栄こうえい権柄けんぺい世々よよに。「アミン」。

脚注 [編集]

  1. 投稿者注:憂鬱に同じ。