かへり見ず。ないし罪業のかず〳〵増上して。終にそのあらため所に引出され。科の輕重明白に决断せられて。只今斬罪はつつけの場へ引居られても尚念佛する事かなわざる。地獄の衆生の因果のほど。能〻わきまへたまひて。あわれみてたべ人〻よと。其身もなみだをうかべながら。いとねんころにぞ答へける。其時名主をはじめ集り居たる者共。异口同音感じあひ。みな〳〵袖をぬらしけり。さて名主がいふやう。爾らば念佛を興行して汝が菩提を吊ふべし。怨をのこさず。菊が苦患をやめよといへば。怨灵がいわく。我だに成仏せば。何の遺恨かさらに殘らん只急ひで念佛を興行したまへとある故に。村人すなはち惣談し正月廿六日の晩ぼたい所法藏寺を請對し。らうそく一挺のたつを限りに。念佛を勤行すゑかうの時にいたつて。累が怨灵たちまちさり。本の菊と成ければ。法藏寺をはじめ。名主年寄も安堵して。其上に村中のこゝろざしをあつめ。一飯の斎を行ひ皆〻信心歓喜して各〻我が屋に帰れば菊が氣色やう〳〵本ぶくす
- 菊本服して冥土物語の事
今度ふしぎ成事ありて。与右衛門が娘のきく。かさねと云ものゝ亡魂にさそはれ。地獄極楽見しなど云に。いざ