Page:死霊解脱物語聞書.pdf/10

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いふぞと。怨灵おんれうこたへていわく。されば念佛六字のうちには一さい經巻きやうくわん功徳くとくふくめるゆへに。万機ばんき得脱とくだつ利益りやく有と。名主又とふていわく。爾者しからば汝すでに無上むじやう名号みやうがうの功徳をよくれり。なんぞみづから是をとなへて抜苦ばつく受楽じゆらくせざるやと。怨灵おんれうこたへていわく。おろかなりとよ名主殿。ざい人みづから念佛せば。地獄ぢごく劇苦ぎやくくを身にうけて。劫数こつしゆをふるばかもの。一人もあらんや。しかるに墮獄だごく衆生しゆじやうもさかんにして受苦じゆくこふも久しき事は。あるいひは念佛の利益りやくみづからよくしるといへ共。悪業あくごふのくるをしにひかれて。是をとなふる事かなわず。あるひは生〻しやうにかつてゑんなきゆへに。是を聞かずしらざるたぐひのみおゝし。我すでに念佛のやくをよくしるといへ共。ざいしやうのおゝふところ。みづからとなふる事かなわず。猶此ことばのうたがわしくは。各〻おのぶんをかへりみて。能〻よく得心とくしんしたまへかし。されば此比このごろ念仏ねんぶつ勧化くわんげひろくして。浄土じやうどのめでたき事をうらやみ地獄ぢごくのすさまじさをよくおそるゝといへ共。つとめやすき。極楽往生ごくらくわうじやうの念佛をば。けだいして。殺生せつしやうちうたう邪婬じやゐんとう地獄ぢごくごふとさへいへば。のつかるゝをもおぼへず。ゆんでをおそれめ手をはゞかり。心をつくしてこれをはげむに。あるいひは親兄弟おやきやうだいけんをももちひす。あるひは人の見てあざけるをも