委細をお話して、
「この八月の十五日には天から迎への者が來ると申してをりますが、その時には人數をお遣はしになつて、月の都の人々を捉へて下さいませ」
と、泣く〳〵お願ひしました。お使ひが立ち歸つてその通りを申し上げると、帝は翁に同情されて、いよ〳〵十五日が來ると高野の少將といふ人を勅使として、武士二千人を遣つて竹取りの翁の家をまもらせられました。さて、屋根の上に千人、家のまはりの土手の上に千人といふ風に手分けして、天から降りて來る人々を擊ち退ける手はずであります。この他に家に召し仕はれてゐるもの大勢手ぐすね引いて待つてゐます。家の內は女どもが番をし、お婆さんは、姬を抱へて土藏の中にはひり、翁は土藏の戶を締めて戶口に控へてゐます。その時姬はいひました。
「それほどになさつても、なんの役にも立ちません。あの國の人が來れば、どこの戶もみなひとりでに開いて、戰はうとする人たちも萎えしびれたようになつて力が出ません」