「いやなあに、迎への人がやつて來たら、ひどい目に遇はせて追っ返してやる」
と翁はりきみました。姬も、年寄つた方々の老先も見屆けずに別れるのかと思へば、老とか悲しみとかのないあの國へ歸るのも、一向に嬉しくないといつてまた歎きます。
そのうちに夜もなかばになつたと思ふと、家のあたりが俄にあかるくなつて、滿月の十そう倍ぐらゐの光で、人々の毛孔さへ見えるほどであります。その時、空から雲に乘つた人々が降りて來て、地面から五尺ばかりの空中に、ずらりと立ち列びました。「それ來たっ」と、武士たちが得物をとつて立ち向はうとすると、誰もかれも物に魅はれたように戰ふ氣もなくなり、力も出ず、たゞ、ぼんやりとして目をぱち〳〵させてゐるばかりであります。そこへ月の人々は空を飛ぶ車を一つ持つて來ました。その中から頭らしい一人が翁を呼び出して、
「汝翁よ、そちは少しばかりの善いことをしたので、それを助けるために片時の間、姬を下して、たくさんの黃金を儲けさるようにしてやつたが、今は姬の罪も消えたので迎