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Page:Shisekisyūran17.pdf/758

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ど尊き物ハなし、大將偏に威有て德ましまさすハ、爭か今の世まてかくあらんや、桀紂ハ古の人主なれ共、威有て德なけれハ今の世の人を桀紂にたとふれハいかゝ、夷齊ハ古の餓夫なれ共、賢にして道をそんすれハ、今の世の人を夷齊にたとふれハ悅ふ、德をハねかふへき事也と思ひつゝ過行ハ、漸く日も山のはに入相はかりに鎌倉の里につく、爰を雪の下といふ折からあひにあふ宿り也、

冬ざれに宿とひよれハ折にあふ雪の下てふ名さへ怪しき

やとりハ瑞垣ちかきところなり、くれ方より社頭にきやかなり、いかにと問へは、今日ハ霜月に入て卯日なり、神拜あるよし聞ゆ、幸也とて夜に入て社參す、拜殿にハ神樂始り、五人のおのこ八乙女、戶拍子の聲松にひゝき、笛皷の音肝にめいず、宮々の御燈のかげほのかにして、社參の人々の足音はかりハ聞えて、其人ハさたかに見えす、燈ちかくなれは、袖の行かひ色めくあり樣、よるの神事ほと殊にすくれたるハなし、石のきさはし高くのほりて、本社に詣けれハ、神主着座あり、伶人左右になみ居たり、御土器めくりて、三獻過て樂初り、左座より伶人出て舞ふ、はィ音の響き內陣も感動し、鶴岡の松の風、千とせの聲をそへ、鎌倉山も萬歲とよはふ、神事終り宿に歸り、明れハ四日なり、冬の日ハ賴かたし、木枯の風やしきりけん、時雨の雲やきほひけん、先いさとほき方をきはめて、我指所の寺に行へをしめんとて、五山の寺々をハおくにひめをき、江の島にをもむく、道すから浦山かけてけしきも所々にかわり、目をこらす所多し、金銅の大佛新長谷寺をも、歸るさを心に契りてたゝちに行に、濱邊ちか