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附錄

せり.但本邦の一般讀書界の程度を顧慮して,形式的に論理の最嚴密なるを期せざりき.上記の諸書に於ける叙述の調子槪して全く量の觀念を離れ,最抽象的に卒然として無理數の定義を立し數と量との關係は讀者の推考發明に一任せり.而し讀者の多數は其自ら補充すべき所の者を自ら補充することをせずして,之を說明の不明に歸せしめんとするの傾向を有するが如し.此種の叙述は論理上間然する所なしと雖,一般讀者の讀書力を信用すること多きに過ぎたりと謂ふべし.予の舊著「新撰算術」に於ても紙幅節儉の爲此種の叙述法を採りたり.

今此書に於ては先づ量の性質を說き,凡ての量の數値を供給すべしとの要求を以て,數の定義の基礎となし以て數の觀念の「心理的」(?)側面を說明せんとせり.斯の如くにして無理數の定義の唐突の感を起すを避くるを庶幾せんとす,著者が微意の存する所なり.

旣に量の性質より數の觀念を誘出す,說明の方法は勢「アキシオマチツク」ならざるを得ず,第八章の終に於て數の原則として列擧せる所の者に具體的の根據あり.何故に(如何なる目的の爲に)斯の如き原則を立てゝ之を數の定義となせるか.他なし,量の數値を供給すべしとの要求に應ぜんが爲なり.無理數の定義は天上より落下せるに非ざること明なり.

數の原則は定まれり.さて所謂「アキシオマチツク」の方法によりて數の觀念を確定するには,次の經行を要す.第一,此等の原則を論法の根據として,此等の原則によりて定めらるゝ觀念の內容を分析すること.第二,斯の如くにして定まれる數なる者が果してよく基本の原則に適合せりや否やを審査すること是なり.第七章の論脈を對照すべし.

此等原則より數の觀念を定むること,之を縷說すれば,實質的に第一章乃至第七章の所說を反復せざるべからず.今其端緖を略叙せば次の如し.