このページは校正済みです
一
6
自然數の起源
命名すべき必要は何處にか在る.億,兆以上の數を用ゆべき實際上の必要に遭遇することなかるべきを外にするも,吾人の有する凡ての觀念が必ずしも一々其名を有すべき必要は何處にかある.或數に名なきは其數なきにあらざるなり.
如何なる數をもある符號にて書き表はすべき工夫は甚だ容易なり.最初の數は・其次は・・其次は・・・斯の如く何處までも同じ符號を反復し行かば吾人の考へ得る數にして斯樣の符號にて表はし得ざるものあることなし.然れども斯の如き記數法の實用に供し難きは言ふまでもなし.
命數法,記數法は理論上の問題に非ずして實用上の問題なり.成るべく少數の語又は符號を,成るべく便利なる方法によりて組み合はせ,而して成るべく多くの數を命名し,書き表はさんとするを主眼とせる此問題に,古今東西の民族の與へたる殆ど一致せる解釋は,卽ち所謂十進法なり.然れども十進法の說明は,數の加減乘除を說きたる上ならでは理論上なし得べからざることに屬す.