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龜井君更に又發議して曰くこれよりクレマンソー氏の邸を訪問し祝意を表さむと。乃ち一同自動車數臺を連ねてク氏の邸に至る。邸はフランクリン街にあり見すぼらしき其構えこれが一國大宰相の家とは一寸受取れず、只時節柄警衞巡査の物々しく警戒し居るにより漸くそれと頷かるゝのみ、我々の大擧して押掛くるや巡査共は大に驚き怪しめる態なりしが、やがて祝意の外他意なきものと解り始めて安心せる樣なりき。其內に秘書役某氏玄關に出で來りたれば林氏一同を代表し、得意の佛蘭西語にて祝辞を述べ終りて一同萬歲を叫ぶ。此時隣近所の女子供等には何事の起りしぞと駈け出し來れるも笑止なりき。

 其夜の巴里は早や歡喜を通り越して狂亂に近き狀態なりき。