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 かゝる間に時計は容赦なく進みて早や午後六時を指せり。各國委員の演說も一通り濟みたり、此時議長はやをら身を起して尙他に修正の意見なきや否やを問ふ、滿場寂として聲なし。爰に於てクレマンソー氏は起ちて簡單にしかも明快に宣吿して曰く『國際聯盟修正案は滿場一致を以て可決せられたり』と。

 嗚呼國際聯盟はかくの如くにして遂に此世に現れたり。會議果てゝ人波に押されつゝ外務省の門を出づれば先程の吹雪は已に收まりて西に沈み行く太陽は凱旋門の空を眞紅に染めなせり。余は門前に群れる無數の自動車の總て散じ去る迄黃昏のセーヌ河畔に佇みて獨り世界平和の將來を想ひぬ。

四月二十九日誌す