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二名の獨逸全權は愈入塲し來れり。先なるは新外相ミユラー氏にして後に續けるはベル氏なり、何れもフロツクコートを着し稍俯向き加减に極めて物靜なる態を粧ひつ日本委員の隣なる定めの席に着けり、爰に於てクレマンソー氏は始めて起ちて、先づ獨逸より調印をなすべき旨を吿ぐ。從來の例によれば條約調印の順序は戰勝國を以て先とし、戰敗國を以て後とす。然るに此度は此慣例を破り其順序を顚倒せり。蓋し最近スカパの事件に於て之を見るも近來獨逸が稍自暴自棄となり居れるは明白なる事實なれば、今日も如何なる意想外の行動に出づるや圖り難しとの懸念に出でたるならむ。扨條約の正文はクレマンソー氏の座席の直前なる卓子の上に置かれたり。乃ち獨