第4に、我が国では、ドイツ民法と異なり、時効期間と除斥期間を法文上明確に書き分けた上で後者の一部について準用される時効の規定が明示されているわけではないので、改正前民法724条後段の期間を除斥期間と解する裁判例や学説において、除斥期間経過後の債務の承認・弁済や除斥期間を経過した債権を自働債権と する相殺が可能か等について見解が分かれており、同条後段を除斥期間を定めたものと解する場合、上記の点について裁判所がどのような解釈をとるかについて予見可能性に欠ける状態が継続することになる。他方、改正前民法724条後段の期間を消滅時効と解すれば、この問題は解消する。
第5に、改正前民法724条後段の期間を時効期間としてその中断を認めるとしても、改正前民法147条所定の時効中断事由がある場合には、被害者は損害及び加害者を知ることになるので、改正前民法724条前段による短期消滅時効が進行することになり、除斥期間説をとる場合と比較して浮動性を排除する点で劣後する とはいえないと思われる。
第6に、改正前民法724条後段の期間を除斥期間と解さないと、短期の消滅時効の中断を反復することにより、損害賠償請求権が理論上は永続することになってしまうという意見もあるが、短期の消滅時効の中断を反復するという状況設定は現実性に乏しいように思われる。
第7に、改正後民法724条2号については経過規定が設けられており、民法改正法附則35条1項は、改正前民法724条後段に規定する期間がこの法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例によると定めているところ、この経過規定は、同条後段が除斥期間、改正後民法724 条2号が消滅時効をそれぞれ定めたものであるため、設けられたようにも見える。しかし、国会審議において、参議院法務委員会の委員が、改正前民法724条後段の期間が除斥期間か時効かは各裁判官が判断することになると思うが、今回の改正の趣旨からすれば時効であると考えるのが道理であると思うがいかがかと質問した