(1) 本件において注目すべきことは、本件規定の違憲性は明白であるにもかかわらず、本件規定を含む優生保護法が衆・参両院ともに全会一致の決議によって成立しているという事実である。これは立憲国家たる我が国にとって由々しき事態であると言わねばならない。なぜならば、立憲国家の為政者が構想すべき善き国家とは常に憲法に適合した国家でなければならないにもかかわらず、上記の事実は、違憲であることが明白な国家の行為であっても、異なる時代や環境の下では誰もが合憲と信じて疑わないことがあることを示唆しているからである。
(2) 上記の事態を踏まえて司法が取り得る最善の対応は、為政者が憲法の適用を誤ったとの確信を抱くに至った場合にはその判断を歴史に刻印し、以って立憲国家としての我が国のあり方を示すことであろう。
(3) しかりとすれば、当審は、粛然として本件規定が違憲である旨の判決を下すべきであり、そのためには、本件請求権が除斥期間の経過によって消滅したという主張は信義則に反し、権利の濫用に当たると判断しなければならない。これを要するに、本件請求権が除斥期間の経過によって消滅したと主張することが信義則に反し、権利の濫用に当たるとすることは、改正前民法724条の立法趣旨に反しないばかりか、その立法趣旨の一部であるところの善き国家の構想・実現という理念を積極的に推進するものである。
4 以上により、本意見が正鵠を射たものであることはより一層明らかとなったといえるのではないであろうか。
裁判官宇賀克也の意見は、次のとおりである。
1 私は、本件規定が憲法13条及び14条1項の規定に違反すると解する点、改正前民法724条後段について、期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、また、その主張が信義則に反し又は権利濫用として許されない場合があり、本件はまさにかかる場合に当たるので平成元年判決等を変更すべきとする点については、多数意見に賛成である。