コンテンツにスキップ

Page:Ruling on eugenics law osaka1.pdf/16

提供:Wikisource
このページは校正済みです

例が積み重ねられ、社会においてもそれが規範として通用してきた。これは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図するものとして相応の合理性を有している。

他方で、改正後民法724条は、20年の期間を時効期間と規定したが、この改正は、上記期間を除斥期間とした場合には、中断や停止の規定の適用がないため、期間の経過による権利の消滅を阻止することができず、また、信義則違反や権利濫用に当たる旨を主張する余地がないことから、長期にわたって加害者に対する損害 賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情があると認められる事案においても、被害者の救済を図ることができないおそれがあると考えられたことによるものと解される(平成29年4月25日及び同年5月9日参議院法務委員会における法務大臣及び法務省民事局長各答弁等参照)。これは、上記のような被害者の救済という立法政策上の判断によるものということができ、それによって、判例として確立している上記法理の合理性が当然に失われるものとはいい難い。

また、上記被害者の救済に関する問題のうち、中断の規定の適用の点については、中断事由に当たる事情があった場合は、被害者は損害及び加害者を知っており、3年の消滅時効の問題となることから、20年の期間の経過による権利の消滅の阻止が問題となるのは、実際上極めて限られた事案である。また、停止の規定の 適用の点については、改正前民法158条又は160条の法意に照らし、改正前民法724条後段の効果が生じない場合がある。

そして、信義則違反や権利濫用に当たる旨の主張の点については、本判決による判例変更に関わる問題であるが、不法行為に関する損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を加害者に賠償させることにより、被害者が被った不利益を補塡して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とし、損害の公平な分担を図ることをその理念としており、改正前民法724条後段の期間が除斥期間であるとしても、その主張について民法1条の基本原則が否定される理由はない。こ