かにしておらず、一時金の支給を受けるべき者が同一の事由について損害賠償その他の損害の塡補を受けた場合の調整等についての定めも設けていないなど、被上告人に損害賠償責任があることを前提とはしていない。
3 原審は、上記事実関係等の下において、厚生大臣がその権限を行使して優生保護法10条の規定に基づく不妊手術が行われないようにすべき義務を怠ったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法であり、被上告人は、上告人らが不妊手術を受けたことにより被った損害を賠償すべき義務を負うとした上で、上告人らの被上 告人に対する同項に基づく損害賠償請求権(本件請求権)は、改正前民法724条後段の期間の経過により消滅したと判断して、上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 改正前民法724条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、同請求権は、除斥期間の経過により法律上当然に消滅するものと解されるが、同請求権が同条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができると解するのが相当である(最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決参照)。
(2) そこで、この点について検討する。
ア 本件請求権は、本件規定に基づいて不妊手術が行われたことを理由とする上告人らの被上告人に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権である。しかるところ、本件規定は、憲法13条及び14条1項に違反するものであったというべきであり、本件規定の内容は、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害 するものであることが明白であったというべきであるから、本件規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けると解するのが