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違するし、またズボンについて〔己〕が黒の長ズボンであつたというのに対し、〔乙2〕は白色か国防色で半ズボンか、或は長ズボンであつたとしても脛がみえるようにまくり上げてたとする点においても相違がみられる。しかしこれらも狼狽した〔乙2〕において闇の中を逃走する犯人の姿をみる際に誤認の余地がなかつたとは言い切れないことであり、目を覚ました瞬間に同女の目に映つた白開襟シヤツは、〔己〕のカツターシヤツの白色と符合する。

(ニ) 次に被害者の創傷およびその成因と〔己〕の供述について検討してみるに
  原一審鑑定人木村男也作成の昭和二四年九月三日付鑑定書、同鑑定書添付の引田一雄作成の検案鑑定手記、および原二審鑑定人村上次男作成の昭和二七年一月三一日付鑑定書の各記載によれば、次の事実が認められる。
a 被害者の死因は左総頸動脈の円周の約三分の二の切断(損傷)による失血死であつたが、右損傷をもたらした創傷は右前頸部から刺入し、左方輪状軟骨の上縁を削ぎ、正中に向つて斜め上方に約二〇度の角度をもつて、また、右上方から正中を越えて僅微ながら左頸稍下方に向い、左後頸部に穿通する刺創であつた(切傷を受けた部位につき、木村鑑定は、甲状腺円錐葉上部および左葉、左内頸静脈、左迷走神経のほか、一〇箇所を列記する。)。
  そして右貫通刺創の長さは約六ないし八センチメートル、右前頸部の創口の長さは両創縁が触れるように一直線に近くして計測した場合において約三・五センチメートル、左後頸部のそれは略右前頸部の創口の長さに照応した。そして創口はいずれも被害者の身体の長軸に対し、