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んでいたこと、凶行時において被害者は首を左側に向けていたこと、他から叫び声がしたときは、まさに凶行に及んでいたところであつたこと、叫び声を聞くや直ちに蚊帳から出て侵入した引き戸から庭へ逃げたこと、引き戸は侵入の際身体が入る位開けていたこと、庭伝いに走り潜り戸まで着かないうちに、犯行現場の離座敷から「泥棒」と叫ぶ女の声を聞いたこと、帽子、眼鏡を着用せず、覆面はしなかつたこと、開襟ともいえる白のカツターシヤツを着ていたこと、ゴム底で歩いても音がしない靴を履いていたことなどの供述は、前記証拠から認められる状況とまことによく符合する。

(ロ) 〔己〕が〔乙2〕の存在に気付かなかつたということについては、先に長女のことについて述べたところと、同様のことが言いうるのであり、また〔乙2〕の「〔甲〕」という叫び声も、同女が極度に驚愕狼狽した余り、明瞭な発声にならず、〔己〕の耳にはこれが「子供のかなり大きな泣き声」として記憶に残つていたとしても不思議ではない。〔己〕の身長や、体格については、仙台高等裁判所秋田支部昭和三七年一〇月二五日判決の同人に対する強盗傷人事件の被害者が〔己〕について証言したところは、「その男の人相は頬骨が高く、やせ型で、背は五尺三寸位(一・六〇一メートル)であり、前髪を額に垂していた」というのであつて、〔乙2〕の供述する犯人の特徴と類似していることは注目される。
(ハ) 服装については、〔己〕は本件犯行当時左前膊部に入れ墨をしていてこれを隠すために袖の長目のシヤツを着ていたことを供述し、〔乙2〕が犯人は半袖の白色開襟シヤツであつたというところとは相