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c 貫通刺創は、被害者を基準にして、刃を左方に、峰を右方に向けて突刺した結果のものと認められた。
d また頸部における貫通刺創および弁状傷のほかには、損傷その他暴行を受けた痕跡は全くなかつたし、右刺創は、声帯その他発声管内、発声に関する神経には及ばなかつた。
e bの二条の創管の成因を考察するうえにおいて、受傷時に被害者の顔がやや左側に向いていた場合を想定すると、創管は前右から後左に向いおよそ一直線に並ぶと認められ(しかし頸部内部の創管は皮膚創口の長さ三・五センチメートルほどにはなく、厚いところで約二・五センチメートルである。)、この程度の顔や頸部の回転、傾斜によつては、前頸部正中の皮膚に対し、頸部の臓器組織の変化が起きるところであるから、結局刺突の際に加害者の手許が僅微ながら狂い、また被害者において刃尖の刺つた瞬間から無意識、反射的に頸を廻わしたことがあれば、これらが複雑に関連することにより、頸部内部の二条の創管(前左方に僅かに選出した弓状の創管)が生ずるものと考察された。
f a後段の弁状傷は、犯人の手許が少し狂つて、例えば一度左に突き抜けた刃先がさらに下方の皮膚に軽く刺さつて直ちに外づれたために生じたものとも考察された。
g 〔己〕が被害者の右横に坐して被害者の咽喉部を垂直に刺したとすれば、まず凶器は逆手にもたなければ、体勢としては極めて不自然であるから、「逆手に持つて」刺したとの供述は首肯できる。また刃が自分の方に向いていたとする供述部分は、左右の横向きは除いて、その角度