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ソー 若し彼れ一人の指導に從はず、其褒貶を尊重せず、毫も其事を解せざる所の衆人の意見を意とする時は、彼れ害惡を被ること有らざるべきか。

クリ 然り必ず之れを被らん。

ソー 其の害惡は如何なるものなるべき。其不從順なる人は、如何なる傾向に、又た如何なる影響を被るべき。

クリ 其身體に影響を及ぼすや明かにして、乃ち之れ惡に由つて損害さるゝなり。

ソー 然り、大に善し。クリトーンよ、此事又た他の事物に通じても然るべく、一々枚擧するの要なかるべし。正不正、美不美、善不善、是等は吾等の今ま思考せんとする所にして、吾等は衆人の意見に從ひ、彼等の批評を恐るべきか、將た又た善く道理を理解せる人の意見に從ひ、衆人の意見よりも、此人の意見を敬畏すべきか。而して吾等智者に背き、吾等の內に在つて、正義に由つて進步し、不正に由つて壞頽する所の原理を破壞し、傷害すべきか、或は智者の指敎に從ふべきか。此くの如き原理なるものは果