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るを以つてなり。

ソー クリトーンよ、余は、彼等が其事を爲し得ることを望む。何となれば、若し之れを善くすとせば、又最大善をも爲すことを得べければなり、之れ善き事なり。然りと雖實を云はゞ、彼等多數は善も爲し能はず、又惡をも爲し能はず、即ち彼等は人をして賢たらしむること能はず、又た愚たらしむること能はずして、彼等の爲す所は、たゞ偶然の結果に過ぎざるなり。

クリ 余は此の事に就いて爭ふこと勿からん。然りと雖ソークラテースよ、君は余及び君の諸友人の爲めを思ひて其身を所置せんとせるには非ざるか。即ち若し君にして脫獄せば、余は君を盜み出だしたるものなりと密吿するものありて、爲めに吾等の財產の全部或は大部分を失ふことあらざるやを考へ、或は其他今一層大なる害惡吾等の身の上に來ることなきやを憂慮し、以つて脫獄を躊躇せるには非ざるか。君の恐るゝ所、若し此くの如きものなりとせば、願くば此くの如きは憂ふること勿れ、君を救はんが爲めには吾等此くの如き害惡は勿論、今一層大なる危險をも之れに面せん。故に余の言に從ひ余の言の如く爲せ。