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た余の死すべき塲所に至るの前、暫く、諸君と共に此事に就いて談話せんことを欲す。故に願くば暫くこゝに留まりて、時間の許るす限り、互に談話すべし。諸君は余の友人なり、故に余の一身に起りたる此事件の眞相を語らん。あゝ裁判官諸君――諸君は眞に裁判官なりと稱するを得べし――余は驚くべき事を諸君に語らん。余は今日に至るまで何事をか之を言行するに當り、若し過失或は誤謬等に傾くに當つてや、如何なる些細の事なりと雖、かの余が數々言へる所の神託なるもの余の內心に示現して、其れに反對するを例となす。而して今や余の一身に取つては最後の最惡なるものなりと思はるゝ所のものにして、又た世間よりも然りと信ぜらるゝ所の事件生ぜり。然りと雖神託は何の示現をも爲すことなく、今朝余の家を出づる時にも、余の法庭に至る時にも、又た余の言はんとせる所の事に就いて論ずる時にも、神託毫も反對することあらざりき。余は又た辯論中、數回の間斷を爲したりと雖、此事に關する言行に於て、神託何事にも反對することあらざりき。余は如何に此神託の無言なりしを說明すべきか。余は之れを諸君に吿げん。是れ實に余の一身に起りたる