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於て其の武器を投棄し、其敵人の膝下に平伏して哀を請ふに於ては、彼れ或は死を遁るゝことを得べし、又た其の危難の塲合に於ても人若し何事なりとも之れを言行することを肯んぜば、又た之れを遁るゝの方法なきに非ざるなり。友人諸君、たゞ其困難なるは死を避くることに非ずして、不正を避くることたるなり。何となれば不正は、死よりも大速力を以つて追走し來るものなればなり。余は年老ひて步むこと亦遲く、甚だ走行の遲き人と雖能く余に追及するを得るなり。而して余の吿發人等は之れに反して甚だ英敏々捷なりと雖、不正と稱する所の疾足者は能く彼等を追ひ越せり。而して余は今ま諸君に死刑を宣吿せられて死の途に行くと雖、彼等も亦眞理に宣吿せられて不正惡行罪の途に行かん。而して余は自己の裁决を待たざるべからずと雖、彼等も亦其裁决を待たざるを得ざるなり。余思ふに是等の事は定數の避くべからざることにして、固より當然の事なりと。

余を死刑に處せし人々よ、余は今ま諸君に預言せんと欲す。何となれば余は今ま將に死せんとし、又た人が預言力を授かるも此時なればなり。