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人或は云はん、然りソークラテースよ、然りと雖も君は自己の舌を制御すること能はざるか、若し舌をだに制御することを得ば、君は他國に至ると雖何人も咎むる者あらざるべしと。此の事に關して十分の了解を諸君に與ふることは甚だ難し。何となれば若し余にして、此く爲す時は之れ神命に從はざる所行たるを以つて、余は舌を制御すること能はざるなりと云はゞ、諸君は余の言を以つて眞面目に非ずと云はん。又た若し、人間の最大善は日々德義に就いて語ることにして、又た此事に關して、余が自己及び他人を討驗せるは諸君の聞ける所、又た此の討驗を經ざる所の生活なるものは、生活の價値なきものなりと云はゞ、諸君は尙ほ余の言に信を置くことを爲さゞるべし。而して余は假令諸君を說伏することは難しと雖、余の言ふ所は盡く眞なり。且つ余は如何なる罰なりとも身に之れを受くべきものなりと思考すること能はざるなり。若し余にして金錢を有せるものならんには、余の拂ひ得る程度に於て科料として申し出でしなるべく、之れ別に甚しき惡にあらざるなり。然りと雖諸君の知れる如く、余は金錢を有せざるを以つて、たゞ願ひ得るは、科料をして余の