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事をも知らざることを知り、且つ彼等は多くの美なる事物を知れることを確知すればなり。果して誤らず、彼等は余の知らざる所の多くの事を知れり、而して此點に於て彼等は余よりも賢人たりしなり。然りと雖余は最も巧妙なる工藝家と雖、又た詩人と同一なる缺點を有せることを觀る。何となれば彼等は善良なる工藝家にして、又た自ら一切の高尙なる事を知れりと思へるを以つてなり。而して彼等の此缺點は彼等の智慧を遮ぎり蔽へり。――故に余は神托の爲めに自ら心に問うて曰く、余は從來ありしまゝに、彼等の知識も有することなく、又た彼等の無智をも有することなかるべきか、或は彼等の如く知識と無智と兼ねて之れを有すべきかと。而して余は自己及び神託に答へて曰く、余は從來のまゝなるに若かずと。

此の穿鑿は余をして最も不良なる又た最も危險なる多くの敵を作らしめ、又た多くの讒搆をして起らしむるに至れり。而して余は賢人なりと稱せらる、之れ余の談話を聽く者は、余が他人より求め出さんとせる所の知識を、余自ら之れを有せる者なりと想像せるに由る。然りと雖アテ