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行中必ずや一種人と異るものありしなるべし。若し君にして世人と同樣なりしならんには凡て此の高名なること、及び君に關する喧しき世評は起らざりしなるべし。此事に就いて語る所あれ。吾等君に關して速斷を下すことを好まざるなり』と。余は此言を以つて一種の挑戰なりとなす。而して余は今ま此の『賢人』と云へる名稱と、好ましからざる高名との起りたる理由を諸君に說明すべければ願くば傾聽する所あれ。諸君の內或は余を以つて戯言を爲せるものなりと思ふ者あらんと雖、余は全く眞理を諸君に語ることを宣言する者なり。アテーナイ人諸君、余の此名聲は余の有せる所の一種の智慧より來りしものたるなり。而して諸君若し此智慧の如何なるものなるやを問ふことあらんには、余は答へん、此くの如きの智慧は人間の得能ふ所のものにして、此智慧の範圍を以つて云ふ時は、余は賢人たるを信ずるの傾向を有せるなり。然るに余の就いて與に語りし所の人々は人間以上の智慧を有せる人にして、余自身は、此智慧を有せざるを以つて、余は之れを說述すること能はざるべし。然るにかの、余を目して此智慧を有せりとなす者は、彼れ虛言せるなり。