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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/75

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しめたり。

ホッブスの哲學は三部門を以て成る。第一部門は通常謂ふ所の物體を論ずるもの即ち物理の學なり、第二部門は人間を論ずるもの、第三は人間の相集まりて結成する國家を論ずるもの也。

《ホッブスの心理論。》〔三〕こゝにはホッブスの物理學を陳ぶる必要なし、吾人の注意を價ひするは其の人間及び國家の論なり。人間論の中に就き最も注意すべきは心理の論なり。彼れ以爲へらく、外物が吾人の感官に印象(impression)を與へ而して件の印象が心臟に傳はりてこゝに知覺を生ず。色聲香味觸等の感覺は外物に具はれるものにあらずして主觀上のものなり、一旦生起したる感覺の尙ほ其の痕跡を止めたる之れを記憶といふ。記憶の集積したるもの及び之れを基とし類を以て推して將來を豫期することを相合したるもの是れ即ち吾人の經驗と名づくるもの也。

吾人の心作用に極めて肝要なる關係を有するは言語の能力なり。言語は吾人の經驗したるものの中、相似たるものを纏めて之れに與へたる者の符號なり。通性は吾人の作り設けたるもの即ち言語に外ならず。吾人が通常名づけて高等なる