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へば)畢竟實用に在り。知識は即ち力なり。以爲へらく、自然を使役せむと欲せば先づ之れに隨順せざるべからず、自家の空想臆測に走らずして自然の法則を知らざるべからず、自然界の法則を知ることによりて能く自然力を使役し利用するを得べしと。先きに過渡時代の祕術的思想に於いて天然界の祕密に探り入りて之れを用ゐるべしと說けるが如き漠然たる思想に代へて精密なる科學的(歸納的)硏究を以て天然の法則を確かめ之れに從ひて能く天然力を用ゐ得べしといふ理想はベーコンの明らかに意識せし所なりき。而して是れ當時の思想界の大志望を揭げたるもの也。人間はかくの如き力によりて偉大なる事業を爲すことを得べく、また之れによりて吾人の生活を改良して人生に幸福を來たし得べしといふ新希望、新信仰を以て充ち滿ちたる時勢の聲がベーコンによりて發せられたる也。

《ベーコンの所謂自然科學的硏究は物界、社會、人心の一切事相に關す。》〔七〕ベーコンに於いては哲學は即ち自然界の硏究なり。されど謂ふところ自然界の硏究は唯だ物界にのみ關するものにあらず。精神作用に係る事相(社會的及び心理的現象)の知識も亦自然科學的歸納法を用ゐて始めて確實にせらるべしと云ふこと是れ已に彼れが腦裡に浮かべたる所なり。是れ彼れが眼光の遠き