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く根柢より革むるの必要とを認めたり。是を以て彼れは切りにスコラ學風を彈訶し中世紀に行はれたりしアリストテレース風の論理即ち三段論法を以てする演繹法をば吾人が知識の擴張に於いて價値なきものと見、アリストテレースが學術の舊機關『オルガノン』に對して新機關を說きたり、是れ即ち其の『ノーヴム、オルガヌム』なり。彼れに於いて新學問の精神は伊太利の自然哲學者等に於けるよりは更に明瞭に更に組織的のものとなれり。其の功績は新學問の組織を建てたるに在るよりも寧ろ自然科學の新理想新硏究法とを揭げたるに在り。彼れが自然界に關する實際の硏究とては殆んど一も見るべき者なく其の蒐集したる事實上の知識は槪ね從來存在せる書籍等に據れり、また其の實際用ゐたりし思想にも中世紀より傅來せる者少なからず。斯くの如くベーコンは實際學術の硏究によりて新しき天然の法則を發見せしにもあらねば、また新經驗的哲學の組織を成せるにもあらず、其の功績は專ら自然科學の歸納的硏究法を明らかにせむと力めたるに在り。此の意味に於いて彼れを近世學術の祖なりといふ、固より不可なし。

《四種偶像論。》〔四〕ベーコン以爲へらく、確實なる知識に達せむには吾人は先づ古き先入を