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に前後するのみならずして若干の法則に從へる事物を以て成り立つものなり。感覺が時間及び空間に於いて前後し共在するのみにては未だ所謂事物てふものを成さず、自然科學が此等自然界の事物に就いて有する所は唯だ數學上の關係のみに非ずして又能く其等事物の相互の關係に於ける幾多の通則に及ばざるべからず。例へば、因果の規律と云ふものの如き、自然科學は之れを捨てゝ成り立つべきものにあらず、而して此等因果の規律等は唯だ空間及び時間上の關係として言ひ現はす所の數學上の原理と同一なるものに非ず。是に於いてカントは進みて自然科學上なる吾人の知識を成り立たしむる幾多の原理が先天的に立し得らるゝか否かを問へり。是れ即ち彼れが『純粹理性批判』に於ける第二の問題なり。

兹に言へる經驗上の事物は時空に於ける關係以外の關係によりて結合せられて始めて成り立つもの也といふ意をカントは言ひ表はして曰はく、吾人の感覺を時空の形式に入れて成り立たしめたる直觀を更に統一的作用を有する槪念によりて仕立て上げ茲に始めて經驗上の事物を成す、經驗上の事物に於ける統一性は此の槪念より來たるものなりと。斯くして彼れは感性の與ふる所を雜多なるもの