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はしぬ、是れ彼れが有名なる第三の批評論にしてカントの美學說は此の書の中に於いて發見せらる。

彼れが一千七百九十三年に著はしたる "Die Religion innerhalb der Grenzen der blossen Vernunft" は彼れが『實踐的理性批判』の一部分と共にカントの宗敎論を窺ふに必要なる書也。又一千七百き九十七年に著はしたる "Metaphysische Anfangsgründe der Rechtslehre" 及び "Metaphysische Anfangsgründe der Tugendlehre"(此の二つを合して "Metaphysische der Sitten" といふ)は彼れが講義を編輯したるものにして其の目的とする所彼れが倫理哲學原理に基づきて吾人の德行及び法理を論ずるにあり。カントの著述には右の外人類學、論理學、地文學及び敎育學等の講義の出版されたるものあり。彼れが時々に著はしたる論文及び著書も亦少なからず。

《カントの哲學の三部分、即ち三批評論。》〔五〕上に揭げたるカントが批評哲學時代の著述を以ても知り得る如く、彼れの哲學は三つの主要なる部分より成れるを見る。彼れは先づ其の批評的硏究を吾人の知識作用其の物に用ゐたり、是れ即ち其の純粹理性(若しくは純粹知的理性)の批判なり。彼れは次ぎに知的理性とは全く別なる範圍を占むるものとして吾