Page:Onishihakushizenshu04.djvu/52

提供:Wikisource
このページは校正済みです

如くなるが自然界が斯くも歎美され貴重されたると共に當時の一特徵といふべきは國家の重大視せらるゝに至りたることなり。古代希臘に於いては宗敎は國家の附屬物に外ならざりしが中世紀に在りては二者の關係全く之れに反して國家が宗敎に附屬する有樣となれりしは曩に陳述せるが如し。而して近世に入るに當たりては恰も神學と哲學と、超自然界と自然界との相分離せるが如く出世間の事に關する敎會と世間を治むる國家とはまた相分かれて國家は全く殊別獨立のものとなれり。而して國家の獨立及び尊嚴を說くに畢生の力を費やしたる者は之れを先づマッキャヹルリ(Macchiavelli 一四六九―一五二七)に於いて見るを得。彼れ曾て其の友に贈れる書中に曰へらく、「運命我れをして絹絲を語り毛を織ることを語り損益を語り得ざらしむ、我れは國家に就きて語らざるを得ず、然らざれば全く默せむのみ」と。彼れは國家盛衰の原因を歷史上に求めて以爲へらく、國家の盛衰するや其の由りて盛衰する歷史上の法則あり。國家の成り立ちや、其が救濟維持の策や皆歷史を講じて後始めて知るを得べしと。而して彼れが實際の人類の歷史に就きて見たる所に從へば、人間は飽くことなき慾望を以て動くもの