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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/471

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を飾り種々の繁文縟禮を設けて中心の誠を蔽ひ了すること、又階級制度を以て下等人民を壓制すること、又分業が一部の者をして他者の奴隸たらしめ而して之れを使役するによりて一部の者は愈〻其の所得を增すと共に又其の所得を利用して益〻他の者を使役するに至る等、皆是れ文化の弊害といふべきものなり。

斯くの如く文明の進步は決して社會を善ならしめたるものに非ず却つて之れを腐敗せしめたるものなり、吾人は寧ろ社會的生活に入りかゝりたる時代即ち社會の猶ほ少壯なりし時に於いて止まるべかりしなり。今や社會は已に老衰したり、されど一旦かく純樸の狀態より離れたる以上は到底再び元の儘なる狀態に復ること能はず、唯だ吾人は社會の眞正の成立を知りて其の弊害を除去する法を講ぜざるべからず、而して其を來たすべき一方法は即ち敎育なり。

《ルソーの敎育說。》〔三六〕ルソーが敎育說は先きにロックが英國の紳士を養成することを目的として唱へたりし思想を採用し來たり彼れが自然主義に基づきて更に之れを打ち擴げたるが如きものにして其の思想に於いては特に新發明の見といふべきものなしとするも彼れの天才が之れに與へたる表現は其の思想をして新奇なる力