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るにはあらずと。彼れが社會の起原を說くや主として吾人の具ふる種々の本能及び衝動に注意し、吾人が性情の一切の作用は初めより現狀態に在るものにあらざれども又初めより唯だ〳〵利己をのみ中心としたるものにあらずといふことに著眼せり。即ち彼れが倫理說の一大特色ともいふべきは吾人が自然に具ふる直接なる本能的感情を根據とせる點に在り。かく吾人が自然に具ふる性情の直接の作用及び傾向に最も重きを置きたる彼れの倫理說は明らかに利己主義を根據とし種々の考慮を用ゐることを以て道德上の眼目とする說に反對すると共にまた推理を必要とする主智的道德說にも反對せるなり。彼れは道德的感情の吾人に生得なることを主張したるが而かも生得と謂ふことが彼れに於いてロックに於けるとは異別なる意義を得たり、盖し彼れに於いては生得なると自然なると又本具なるとは畢竟同一義なりとせられたり。吾人の自然の發達の結果として吾人に生起し來たる所のものは凡べて吾人に生得のものと云ひて可なり。其の生得なるか否かを見るに必要なるは其れの發現する時の遲速に非ずまた他のものの啓發を待たずといふことに非ずして唯だ吾人の天性に於いて或時期が來たり