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處を得て能く社會一般の善福を來たすと共にまたおのづから自己の幸福を來たすものとなる、是れ實に道德上善といふ名稱を得て賞讚さるべきものなり。斯くシャフツベリーは說きて而して事實に就いて之れを證明せむが爲めに委しく吾人の具ふる諸多の性情の心理的穿鑿を爲して社會に於ける個々人の調和と一個人に於ける其の性情の調和とは互に其の歸向を一にするものなりと主張したり。斯く倫理學上吾人の心情の精細なる心理的觀察を始めて茲に其の倫理說の基礎を置かむとしたる是れシャフツベリーの名著 "Characteristics of Men, Manners, Opinions and Times" (千七百十一年出版)が英國の倫理學上の硏究に一時期を劃したる所以なり。

シャフツベリーに從へば、各個人の具有する社會的及び利己的性情が社會一般を益する底の釣合を保ち居ること是れ取りも直さず各個人自らの利益を來たすに最も適したる事なり、而してかくの如くに云爲する人を稱して善き人といふ。而して更に其等善良なる行爲及びかゝる行爲に出づる所以の性情を反省すれば吾人はおのづからかゝる行爲及び性情其のものを嘉みする心を起こす、一言にして