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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/364

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ロックはホッブスの說けるが如く吾人の自然の狀態を以て全く人々相敵視するの有樣に在るものなりと云はず。以爲へらく、吾人の國家を成すは政權の下に在ることが各人孤立するに比して社會的生活を爲すに便なればなり、然れども一旦政權の下に服したりとて決して自然の狀態に於いて有したりし自由の權利を抛棄せるものにあらず、寧ろ政權の下に於いて其の自由の權利が更に安全に保護せらるゝなり。吾人は自然に財產の權を有す、而して其の權の何處より來たるかを尋ぬれば吾人が各自土地或は物質に吾が勞力を加へたることに起因す。故に縱令政權てふものなくとも一人が其の勞力を或る物に加ふるや已に其の物に對して所有權を有し而して他人の之れを犯すべからざる位置に立つなり。權利義務てふものは已にこゝに始まるものにしてホッブスの云へる如く主權者の立てたる法律によりて始めて成り立てりといふべからず、唯だ斯く自然に吾人の有する所有權が政權の下に於いて更に確かに保護せらるゝのみ。而して政權の中心ともいふべき主權は元來人民の合意によりて出來したるものなるがゆゑに之れを行ふは其の人民全體の意志によらざるべからず而して全體の意志は其の多數を