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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/290

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ークレーがロックの所說に於いて未だ整はずして中途に止まれりし點を改めて其が正當の結論を發表したるものと見るべきなり。

《抽象的槪念の駁擊。》〔四〕次ぎにバークレーが心理硏究の出立點ともいふべきは其が抽象的槪念の駁擊なり。ロックは曰はく、凡べて實に存在する所のものは個々物なり、されど吾人は個々物に共通なる性質を抽象して我が心の中に其が槪念を形づくるを得と。バークレーは更に一步を進めて曰はく、吾人は其の如き槪念を形づくり得るものにあらず、是れ吾人が心作用を自ら省みても明らかなることなり、吾人の思ひ浮かぶる所は或一つの特殊の相を具へたるものに限る、其れに明瞭不明瞭の差こそあれ兎に角一殊相を具へたる觀念ならざるべからず。若干の事物に共通なる性をのみ思ひ浮かぶるといふ如きことは到底爲し得べからず、例へば運動といふことを思ひ浮かぶるにも速くもなく、遲くもなく、右せずまた左せざる運動といふが如きものは到底思ひ浮かぶるによしなし、若し浮かぶればそは必ず何ほどかの速力を具へ何方へかの方向を取り行く運動なり。人間といふ觀念を思ひ浮かぶるも亦然り、色白からず又黑からず、軀高からず又低からず、男にもあらず女にもあ