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有無を以て別かつなり、實在上の本性に就きては吾人の詳にせざること多しと。以上のロックの論は畢竟中世紀の末葉に興隆したる一種の唯名論又は槪念論と名づくるものの立ち塲を受け繼げるなり。

《對實觀念と非實觀念、相應觀念と不相應觀念、眞妄の別、命題。》〔一三〕吾人の槪念に對して其れに應ずるものある時には之れを對實觀念(real idea)と云ひ眞實其れに對應するものなき時には之れを非實觀念といふ。對實觀念の中、一觀念が實際其の指示するものに善く應合したる時には其は相應觀念(adequate idea)と名づけられ、それに應合することの足らざる時には不相應觀念(inadequate idea)と名づけらる。非實觀念は實際あるべからざるものの觀念にして例へば卑怯なる勇者と云ひ又は人頭獸身の怪物と云ふ如きはこれに屬す。されど雜合狀態及び關係の觀念は唯だ吾人の心に假造したるものにてはあれど是れ必ずしも右云ふ意味にて非實のものにあらず、そは其等は元來吾人の假造したる觀念として存するより外にそれの對應すべきもの(それの指示すべきもの)を有せざればなり。故に其等を非實となすべき所以のものが其等以外に在るにあらず、其等はそれ自らが原型(archetypa)なれば其れと相對せしめて是れを非實となすべき者