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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/157

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《スピノーザの國家論、其のホッブスより來たれる自然論的影響。》〔一五〕スピノーザが心理說に於ける自然論の要素は彼れがホッブス風の思想に影響せられたるに由るものなることは以上述べし所によりて明らかなるが其の國家の論に於いては更に大にホッブスの思想に影響せられたる所あるを見る。スピノーザは實際に存せざる空想的國家を描くことを爲さず專ら現存する諸種の國家の如何にして生起せるかを了解せむことを力むと云ひ、而して其の國家の起原を說くや、曰はく、人類生存の原初に於いては力と權利とは同一なるものにしておのづから人々互に敵たるの狀態に居りしが、斯くすることの各自に不利なるを知りてこゝに國家を結ぶに至れりと。されどスピノーザが國家論のホッブスのと異なる所は、已に國家の結ばれたる狀態に於いても彼れは成るべく自由の發達といふことに重きを置ける點に在り。彼れ以爲へらく、國家其の物の權の達する所は其の力の達する限りを出でず、他の國家に對しては其の力の及ぶ所に從ひて自らの利益を保存すといふこと即ち一國家の唯一の目的なり、故に一國家の利益に反することに於いても尙ほ他の國家に對して守るべき義務といふべきもの無し。一國家が自國の人民に對するや亦其の力の及ぶ限りにのみ權あるも