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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/504

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遂に平等を發見せざるべからず、之れを譬ふるに猶ほ圓を大にし行かば弓と其の弦とが遂に一致し三角形の一角度を大にし行かば其の角度を成す二邊と他の一邊とが遂に合一するに至るが如し。最高の知識は一切の反對の合一することを直觀する(intuitio)に在り。故に若し辯別智を以て事物を差別するを名づけて知識と云はば理智を以て平等相を發見するをば無識と名づくべし、換言すれば辯別智の揭ぐる一切の差別及び反對を拂ひ去りて始めて理智の見に達し得べし。總べて差別的思想の念ひ浮かぶる所は未だ以て眞の知識となすに足らずと見るに至りて、即ち此等の差別的想念を去り無識無念想の狀態に入るに至りて始めて眞知に達したりといふことを得べし。而して是れ即ち有意識の無知(docta ignorantia)なり。

《神と萬物、平等と差別。》〔一九〕斯く吾人に於ける最高の知識は反對するものの間に一致を發見するに在るが其の反對の一致(coincidentia oppositorum)是れ即ち神なり。神は有限を合一する無限なり。盖し有限は差別及び反對を以て成り而して之れを融會合體せしむる所以これ無限なる神なり。神は有限に反對したる無限にはあらずして有限