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あるが故に彼れは尙ほ中世紀時代に屬すべきものなり。而して彼れに於いては上の如くスコラ哲學本來の思想、神祕的流派、及び從來多少存在したりし而も殊に新時代の旗幟と稱すべき自然界硏究の傾向の相合せるを見るが故に吾人は彼れを以て一方には中世紀思想界の結末を成せると共に又新時代へ移らむとする趨勢を示せるものと見るを得べし。

《知識の三段、有意識の無智。》〔一八〕ニコラウスに從へば吾人の知識に三段あり。最下の段階は感官の知覺にして唯だ事物のおぼろげなる樣を示すもの即ち未だ知識として明らかに形づくられざる材料を與ふるものなり。第二の段階を辯別智(ratio)となす。是れ思想の矛盾律に從うて事物を辯別するものにして時間に於いて、空間に於いて及び數量によりて事物を相判かつは其の作用なり。最高の段階は理智(intellectus)にして即ち反對のものの中に一致を發見する作用なり。矛盾律に從うて相反するものを相別かつのみならず更に進みて其の中に根本的一致を發見するもの是れ吾人の知識の最高段階なり。差別相を見る第二段の知識は遂におのづから平等相を見る第三段の知識に移らざるべからず而して差別を極め行かば其の窮極には