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傳及び敎權とによりて吾人に授けらるゝものとしたりし也。

《獨逸神祕學派、其の開祖、特色等。》〔一三〕かくの如く道理と信仰との分離し行ける傍に神祕的思想は一の大なる流派を成すこととなりぬ。オッカムの說けるが如き唯名論(即ち吾人は外物其の物を知ること能はず唯だ吾人の心に喚起されたる標幟をのみ知るといふ論)に立ちて純理哲學を排斥することが神祕的思想と相結びたるものをばピエール、ダイイ(Pierre d'Ailly 一三五〇―一四二五)及びジェルソン(Gerson 一三六三―一四二九)に於いて見ることを得。此等の人々に先きだちて神祕說の最も偉大なる代表者となれるをエックハルト(Eckhart 一二五〇乃至一二六〇に生まれ一三二九以前に死せり)とす。彼れは所謂獨逸神祕學派の開祖にして神祕說は彼れに於いて始めて明瞭に又大膽に發表せられたり。謂はゆる獨逸神祕學派は其の由來に於いて敎會の宗義に對しては頗る獨立の態度を保てるものなれば嚴密なる意味に謂ふスコラ哲學と區別するを要す。此の派の目的とせし所は敎會の定めたる宗義の合理的なることを辯明せむとするよりも寧ろ各個人の直接に意識する深邃なる宗敎的經驗を了解しそを言ひ表はさむとするに在りき。其の說の表白の仕方より見る