Page:Onishihakushizenshu03.djvu/446

提供:Wikisource
このページは校正済みです

れば神の光榮の持續せられむには件の缺損を補足せざるべからず。

件の缺損を補はむが爲めに人類は造られたり。然るに人類も亦罪を犯せり。何故に罪を犯したるか。罪は素より自由意志に由來するものなれば其の理由と謂ふ可きものなし(incansale)、理由なく唯だ我が儘なるに由りて出で來たれるなり。是に於いて神の光榮の維持せられむがため復た此の缺損を補ふ必要を生じたり。幸に人類は子孫相遺傳して一體を成すものなるを以て其の墮落より救濟さるゝ道あり。彼等は此の點に於いて子孫相傅ふることなき天使と異なり。

同一なる人性は父より子に傳へらる。アダムの始めて造られしや全人類は種子として彼れの身に存したり、アダムの罪を犯したりし時に人類が罪を犯し人性が罪惡に染めるなり。是を以て其の子孫は皆罪に染みたる性を得生まれながらにして罪を犯す者となれり(こゝに一種類のものの槪念を一體として見る實在論上の思想を認むべし)。然れども斯くの如く一方に於いて其の罪惡の遺傳するは他方に於いてまた其の救はれ得る可能性ある所以なり。人間はアダムに於いて瀆れたりし人性を受け繼ぎて罪に染めるものとなれるが如くにまた基督に於いて